業務災害かどうか判断するにあたり，「業務遂行性」が「業務起因性」の第一次的な判断基準とされていることから,まずは「業務遂行性」の有無を判断し，その上で「業務起因性」について判断する流れとなります。
　「業務遂行性」とは,労働者が「労働関係のもとにあること」，つまり「労働契約に基づき事業主の支配下にあること」といいます。サロンと従業員が雇用関係があれば，「業務遂行性」は該当します。また「業務起因性」とは，「業務または業務行為を含めて，『労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にあること』に伴う危険が現実化したと一般的にみて認められること」をいうとされています。サロンで仕事をしている間に手首を使いすぎということで腱鞘炎になったのであれば，「業務起因性」が認められることになります。
　そのため，タイトルのようなケースでは労災申請をすれば、労災が認められる可能性があります。
　もっとも，労働契約法上，サロンには従業員の生命，身体等の安全を確保しながら労働できるように，必要な配慮をする，安全配慮義務があるとされています。ですから，上記のような業務中に腱鞘炎がひどくなったという場合には，安全配慮義務違反があるといえるとき損害賠償責任を負う可能性が出てきます。労災の場合，腱鞘炎が原因で仕事を休まざるを得なくなったようなときには，休業補償が６割ないし最大で８割支給ですから，全額カバーされません。また，精神的苦痛をうけたということを理由とした慰謝料も労災では支給対象になっていないからです。
　サロンとしては,従業員に業務の中で腱鞘炎が出来るだけ生じないように，日ごろから負担が生じにくいような業務配分,休憩を取るなどといった配慮を行うことは必要といえます。