
はじめに
利用者の方は高齢の方であることが多いため、身体能力や筋力などが低下しており自力で歩くことが難しく、ヘルパーなどの介助が必要なことが一般的ではないかと思います。
その場合、介助をするヘルパーがいつもと違う人で慣れていない場合や、あるいはいつもと同じヘルパーであっても、利用者の方の体調によってはしっかりと介助しなかったために転んでしまい、怪我を負ったり、そのときに付けていた時計などが壊れてしまうという場合がありえます。
この場合、ヘルパー・施設側の過失の有無はどういったことから考えていくようになるでしょうか。また、怪我の治療費といった、金額がはっきりするものと違い、物の破損の場合は損害額をどう考えるべきでしょうか。
今回はこういった介護事故に伴い発生した怪我や物の損壊を巡る法的問題について取り上げます。
施設の責任はどんな場合に発生するのでしょうか?
介護事業者は利用者に対し、サービス利用契約に基づき、利用者の安全に配慮して施設内で対応しなければならない、安全配慮義務を負っています。
利用者が怪我をすることが予見できたか、予見できた場合結果を避けることができたかでヘルパー・施設側の過失の有無が変わります。ヘルパーがサービス利用者の介助にあたり、これまでのサービス利用者の身体能力や罹患している持病、要介護度などから、怪我が予見できたにもかかわらず、他の介助者の支援を頼むなどの結果を避ける行動を取らなかった場合は、ヘルパーないし施設は治療費や慰謝料等について債務不履行責任を負います。
通常は介護事故に対応できるよう施設で保険に入っていると思いますが、過失がないと保険金が出ないため、思ったほど保険でカバーできないこともあり、注意する必要があります。
損害額についてどのように考えることになるでしょうか?
サービス利用者の方が怪我をした場合、治療費や慰謝料、場合によっては後遺障害が残るような怪我であれば後遺障害が残ってしまったことについての慰謝料などの問題も出て来る可能性があります。なお、サービス利用者の方が例えばヘルパーの、動かずに待っているようにとの指示を理解できる判断能力があったにも関わらず動いたことで転倒した、といった事情があるときは、サービス利用者側にも不注意があったとして過失相殺される可能性があります。
他方、利用者の方の所持品の破損の場合は、物の価値の評価が難しいことが多いでしょう。
利用者の所持品が壊れた場合、破損の原因によりヘルパーや施設の過失が認められる場合があると思います。修理が出来るものであれば修理代金相当額となりますが、修理が出来ない場合、耐用年数が過ぎた古い物であれば経済的価値の評価が難しいこともあります。
また、例えば利用者の方の親族の形見の時計が破損してしまったという場合には、破損についての慰謝料が発生するかが問題になりえます。しかし物についての慰謝料は、裁判例でも一般的には認められないことが多く、利用者の方からそういった慰謝料名目の支払いを求められた場合には、どの範囲で話をつけるかが難しいこともあります。