
身元保証人の意味と注意点
従業員を採用する場合に,身元保証人を立ててもらい契約を交わすことが通常かと思われます。採用をする以上それなりの期間は一緒に仕事をするということで,その中ではミスその他の事柄により自社に損害を与えることがあるかもしれません。そうした場合に保険の活用もありますが,賠償責任の保証人(支払い義務を負ってもらう)のが一番の意味となってきます。
例えば,売上金の管理を任せていた従業員が持ち出していた・経理担当者が経理をごまかしつつお金を持ち出した等がありうるところです。ちなみに,ここでいう自社への損害は,法律上の賠償責任を負う(不法行為と呼ばれるもの)が前提となりますから,正当な内部告発行為などはいくら自社に損害が出ても,その従業員や身元保証人にはお金の請求はできません。
ただし,身元保証人は,長く継続する期間において発生する支払い義務を負う可能性がある,言い換えれば思いもよらない支払い義務を負いかねないことから,法律によって保護がされています。また,裁判例でも責任を軽減する傾向にあります。ここで簡単にふれてみます。
保証人としての期間は定めを置いても最長5年(おかないと3年)・更新はできるものの上限は5年とされています。また,一般に再度の更新を予定していないと考えられていますから,なんの期間も考えることなく保証人になってもらい,採用後何年も経過してから問題が発生した場合に保証人としての契約が終了しているということもありえます。
例えば,期間も更新の規定も置くことなく身元保証人となってもらい,採用後4年後にその従業員がお金を横領していたという場合には,保証期間は終了していますので,身元保証人は責任を負わなくなります。
こうした事のないように,入社時に要求する書類の内容などは注意をする必要があります。また,横領などの犯罪行為は判明が遅れる可能性もあります。当然全ての損害を請求したいところですが,法律裁判例によって気づかずにいたという自社側の事情からいざ裁判になった際には射止められる金額が下がる可能性があります。法律上,様々な事情によって身元保証人に請求ができる金額が決まるとされているためです。賠償の原因となる事項を博した場合には身元保証人の方へ通知する義務があり,これを怠った場合には様々な事情の一つとして考慮されます。
また,退職後に判明した事柄でも,保証契約の期間に発生した事柄については請求自体は可能です。ただし,先ほど触れましたように,諸般の事情によって金額が減額される可能性はありえます。
民法の改正によって影響は?
平成29年に改正された(実際の施行は平成31年段階ではまだです)民法によっても,身元保証に関する基本的なルールは変更されません。ただし,身元保証は期間が継続するもので保証の範囲が膨らむものですが,こうしたタイプについては,限度額(支払の負担を負う限度額)を契約時(通常は入社時)に明確にしておかないといけなくなります。
いずれにしても,身元保証人を要求しておけば支払い義務をすべて背負ってもらえるわけではありません。限界がある点を認識しておく必要はあるでしょう。