競業禁止の合意は必ずしも有効とはなりません
退職した従業員が,独立して競合する地域でサロンを設ける・退職したスタッフが近隣の競合サロンに移るのは防ぎたいという希望があると思います。
移籍したスタッフを受け入れる側としては,一度移ったものの後で元いたサロンとの間でのトラブルリスク(特にその話が通る話である場合)・スタッフの士気に拘わっては定着その他に問題が出てきます。
カルテ(顧客情報など)の持ち出しが法令上大きな問題を抱えているので,こうした行為があるのは避ける必要があります。これは移籍先の場合であっても同じです。顧客情報その他を多く持っているだろう店長などの地位の方はともかく,特にスタイリストやアシスタント等広く競業避止の対象を広げることができるかというと,そういうことはありません。これは,どんな仕事や営業をするかは自由が原則で,一定の合理的な理由があり・合理的な範囲で制限をすることができるというのが裁判例の傾向になります。退職をする方の地位や退職時の割増でお金を渡している(代償という意味)や制限をするだけの大きな理由が必要になります。
特に競合店へのスタッフの移籍を防ぐために,一律に近隣での移籍を禁じるような内容の場合には,こうした制限をするだけの事情がないと考えられる可能性が高く,せっかく合意をしても有効性に問題が出てくるリスクが高くなります。
したがって,移籍を受け入れる側では,その方の地位その他に照らして,制限が大きすぎるといえる場合にはそこまで心配をする必要はなくなります。ただ,店長などを務めた方が独立の際に,顧客情報を持ち出す・元々の顧客に対してかなり多く直接勧誘する(特に独立前に行う場合),スタッフの多くを連れて出るようなケースについては,営業に対する妨害行為になる可能性が出てきます。この場合には,賠償請求等を受けるリスクが出てきます。
競業禁止の合意に基づき,繰り返し警告することがリスクになる場合
合理的な制限で有効である競業避止の合意が存在し,そこに抵触するような競業行為があれば,その行為に対して警告などを行うのは当然で,そのこと自体にリスクがあるわけではありません。もちろん,実際に合意が有効と裁判になった場合に判断されるのかという問題はあります。
これに対し,先ほど触れたような一律に競業避止を設ける場合には,その合意の有効性に問題が出てくる場合があります。この合意に基づき,移籍が発覚したからということで退職するように警告することは,その態様やしつこさなどによっては不当な営業や仕事をする事由に対する侵害になる可能性もあります。程度などがひどい場合には,逆に賠償請求を受ける可能性も出てきかねません。
違約金の合意を入れておけばいいのかという点も,この話自体が労働基準法で禁止されている損害賠償の予定と捉えられる可能性もあります。また,どこで稼働するのかという点への不当な侵害となるおそれもあります。
こうした話以外に,インターネット上その他で情報が出回る可能性もあります。このことに対して,削除その他の対応ができるのかどうかという問題があります。名誉棄損や信用棄損には該当しない可能性も相当程度あります。
以上のように,施策を設けることで一定の抑止効果を事実上もたらすことはあるかもしれませんが,法的な有効性の問題やその運用によって逆にリスクが出てくる場合もあります。