契約期間中の「解雇」のハードルが大きく上がります
多くの業界で人手不足といわれている昨今ですが,勤務をしていただくとしても諸般の事情から「有期雇用」(雇用契約の期間を決めて契約を行う)を選ぶケースがあります。能力その他から見て,長く働けるのかわからない・もし問題がある場合の解雇のハードルが高いということへの不安があるからかもしれません。ただし,お試しで稼働してもらって様子を見たいというのであれば,「試用期間」を設けるという方法もあります。この場合でも雇用契約書あるいは就業規則にその旨と期間を設ける必要があります。
試用期間から本採用には,解約権が留保された形と裁判例上考えられているので,本採用見送りを行うことは通常の解雇と比べればハードルは下がります。ただ,裁判例上,試用期間の延長を消極的に考えるものがありますので,試用期間を延長していくという方法は取りにくいですし,そもそもお試しで稼働してもらうという趣旨から外れるという問題もあります。
これに対して,契約期間を定めた稼働の場合は,後で触れる契約更新についての規制がある場合を除けば,契約更新をするかどうかは雇う側・従業員それぞれの選択になります。言い換えると,人手が継続して確保できない可能性も出てきますが,仮に問題がある従業員の場合には更新がなく終わる場合もありえます。ここの落とし穴は後で触れます。
ただ,雇用期間中の一方的な契約終了(これは解雇だけではありません)については,「やむをえない事情」というさらに高いハードル(信頼関係が壊れ終了まで待つことなく契約終了してもやむをえない事情)が要求されます。そのため,期間中はやめてもらうということにかなり高いハードルが設けられることになります。
更新が継続されることでの,更新拒絶のハードルと「無期雇用転換」の可能性
仮に,何度か更新をしていく形で期間を定めた雇用をしている場合に,いざ更新せず終了ということができるから大丈夫かというとそう簡単ではないことがあります。それは二つあり,一つ目は,①更新が繰り返され実質期間の定めのない雇用と同じ場合②更新が続くことへの合理的な期待を従業員側が持つだけの事情がある場合,には,契約の更新をしないと雇う側が決めても,雇用契約が終了しない形になる点です。
これは,何度か更新をしてみて,期間が満了するからそれで給与の支払いをせずに済むかというとそうならない可能性があるというものです。実質期間の定めのない雇用になると評価される場合なのか・従業員側に更新を期待するだけの事情があるかは事実関係によって異なってきます。単に主観で期待したからいいというわけではありませんが,雇う側が継続して長期働くようなシフトやスタイルで働いてもらった場合には,期待を持つだけの事情があると評価される場合があります。実際に裁判等になると,様々な事実や言い分を総合考慮することになりますが,今回で更新はないなどの通知を書類で残すこと等は負担のかかるうえに,どう評価されるのだろうかという振れ幅の問題は出てくることになります。
いずれにしても,期間途中が無理でも更新せずに,途中で無理なら雇用契約が終了できると安易に考えられるわけではありません。
二つ目は,期間の定めのない雇用契約に法律上「転換」されてしまう場合です。「転換」とは何かという点ですが,期間の限定された雇用を契約としていても,終了までに次は期間の定めのない雇用契約にしたいと従業員から申し出がされた場合には,期間の定めのある雇用契約が期間の定めのないものになるため,時間が経過しても終了時期がやってこないことになります(定年退職等他の事情がある場合は除く)。「通算」して5年が経過した後(一部の職種は10年のものがあります)が原則ですが,実際には終了と次の期間の初日の間に一定の日にちが空いていれば通算はされない(転換を防ぐことができます)が,この管理は簡単ではありません。
日々人が足りているかどうかという場合には,なかなか思わぬ契約が終了しないという事態になる可能性があります。ここで無理に終了とすると,給料の支払義務のみが生じる(契約終了理由がないのに,稼働できない状況にすると給料の支払義務が生じます)点には注意が必要です。期間を定めて雇用をする場合には,このような落とし穴やそもそも人の確保をする点との関係をどうするかをよく考えておく必要があるでしょう。