法律のいろは

2021年12月26日 更新時事問題(法改正・最新の裁判例など)

押印や電子契約における署名などを巡る現在の議論と今後の行方

はじめに

 昨年頃から,官公庁でも押印を廃止するところが増えてきました。昨年に引き続き国でも押印についての検討が進められています。今回は電子契約に関して、電子署名の扱い等も含めて取り上げます。

契約書での押印の意味とは

 現在内閣府規制改革推進会議での議論では,本人確認や申請意思の確認として押印が役に立つものであるのかが検討されています。

   法律上押印が要求されている契約を除けば,必ずしも書類の作成自体要求されていませんので,押印は義務ではありません。書類の作成まで必要とされている種類の契約(これは法律で定められています)についても,押印は義務ではありません。

   しかし,銀行取引を中心に,電子契約や電子署名の場合は別として,契約では署名と押印が求められています。これは契約が成立したかどうか・ある内容で成立したかどうかが問題になった際に,現在の法律上は押印(可能であれば実印)さえあれば,書類に記載された内容の契約が成立したといいやすいとされていることから来ていると考えられます。

   これは,法律上ある書類をそこに署名したことになっている方,が署名したか争いになった場合(自分は署名などしていないから,そのような契約はしていないという話が出てくる場合)に署名だけでなく押印があったときには,印鑑を持っている方が署名と押印をした(自分の意思で署名と押印をしたから,契約をした)と推定する扱いをする規定が民事訴訟法上あるためです。

   実際には印鑑が本人の持ち物かが問題になることもあるので,確実に本人の印鑑として登録されている実印で押印がされていると,本人が自分の意思で署名と押印をした(契約をした)といいやすくなります。ですから,実印での押印の意味は大きくなります(なお,この点について最近は印影が分かってしまうと3Dプリンターでの偽造が可能ではないかとの指摘もされているところです)。

   ただし,この場合でも絶対というわけではなく印鑑の持ち主が他人に預けていた・持ち出されていた,盗まれていたという事情について裏付けをもって言えれば,先ほど述べた推定通りという話ではなくなります。このハードルが高い点が重要な話になってきます。

 

 こういった理由で,印鑑,特に実印を他人に預けるのは慎重になるべきところです。このような推定は実際のところあらゆる書類に及ぶので,証拠としての意味合いに押印の意味は大きく扱われる点が現在の制度では存在します。言い換えると,このようなことがあるので,書類は署名と印鑑を押す前にきちんと内容を確認しておくことが重要となります。

 逆に三文判の場合には,家庭内で使い回されている・共用されている可能性があるので,だれが使用したかまで特定するのは困難であることが多いでしょう。最高裁判所でもそのように判断されています。

電子署名の場合にはサービス利用者と作成者の同一性はどうみる?

 それでは,署名が電子署名の場合にはどのような扱いになるのでしょうか?これについては電子署名法3条で定められています。

 電子署名法3条では,電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名が行われているときは、真正に成立したものと推定する,とあり,一見民事訴訟法の場合と同様の規定が設けられています。ただ,電子署名については括弧書きで,「これを行うために必要な符号及び物件を適切に管理することにより,本人だけが行うことができることとなるものに限る。」とされていることから,どの範囲のものまで含まれるかがこれまで議論の対象になっていました。実際の裁判で取り上げられたケースはまだないようですが、裁判でこの電子署名法3条の推定が認められるには,電子文書の作成した人の意思に基づき電子署名が行われていることが必要であるため,電子契約サービスの利用者と電子文書の作成名義人の同一性が確認される(利用者の身元を確認する)ことが重要な要素と考えられています。電子契約サービスを利用する人について身元確認をしているかどうか、どの程度まで確認しているか、なりすましを防ぐにはどういった対応をしているかはまちまちのため,サービスを使って結ぶ契約の重要性のレベルや金額面や,必要な身元確認がどの程度かによって慎重に電子契約サービスを選ぶのが重要とされています。

   ちなみに電子署名法は数年以内にできた法律と思いがちですが、実際には平成13年4月から施行された法律になります。そのためここ最近の議論を必ずしも反映していない部分があり、そこを埋めるかのようにも政府の見解が令和2年以降発表されています。

 電子署名の活用促進に関する総務省等の論点に対する回答では,電子署名法3条の適用を受けるには、電子署名サービスを提供する事業者が署名の実在性を保障する身元確認の機能を有することが必要との見解がみられるが、どの程度の仕組みを想定しているのかという点について,以下のような回答をしています。すなわち、電子署名法3条の電子署名にあたる要件として、利用者と電子文書の作成名義人の同一性を確認することは求めておらず,利用者の間でどの程度の身元確認を行うかはサービスにより結ぶ契約の重要性などにより決めるべきとしています。結局のところ電子署名法3条に規定する電子署名にあたるかの判断については個別のケースを踏まえた裁判所の判断によるとしていることから、今後の裁判例が積み重なるのを待つようになる格好です。そのため統一してこれを使えば同一性が肯定される、という扱いになってはいないので注意が必要です。

 電子化に関してはフィンテック協会から提言がされていますが,取引の内容や手続きのリスクを踏まえ,リスクが低い取引から段階的に電子化を進める会社が多いこと,電子化にあたってはリスクも踏まえて範囲を限定することもありうること,導入事例としてはNDA(秘密保持契約)が特に多いと指摘されています。また契約締結に止まらず全体の取引における位置づけ(既に顧客であり本人確認の方法があるか,以前の取引で確認の機会があったかなど)も重要であること,問題が発生した場合の具体的な影響や顧客側が嘘の申告を行うような事情があるかなども考慮すると良いなどといった点も着眼点としてあげられています。

 なお,文書が作成者の意図に基づき作成されたかについては押印や署名以外からも証明することができます。継続的な取引であれば取引先とのメールアドレス,本文や日時などのやり取り,送受信記録を保存する,新規に取引を行う場合は契約締結前段階での本人確認情報の記録・保存、入手過程の記録や文書や契約の成立までの間にやり取りされたメールなどの保存などの利用も指摘されています。

 今後金融庁の検討会では,押印の見直しについてこれまでにも指摘されています契約が有効でないとされたときのリスクの内容や程度,リスクへの措置として押印が果たすことができる役割,押印以外の手段が果たせる役割などを踏まえるほか,利用者の利便性や費用対効果も踏まえて優先順位をつけて実施すべきとしています。こういう過渡期の中で電子契約も含めて争いになるケースも出てくると思います。その場合を踏まえて,押印・署名に至るまでの資料の証拠化も視野に入れながら行うのが良いでしょう。

 

お電話でのお問い合わせ

082-569-7525

082-569-7525(クリックで発信)

電話受付 9:00〜18:00 日曜祝日休

  • オンライン・電話相談可能
  • 夜間・休日相談対応可能
  • 出張相談可能

メールでのお問い合わせ

勁草法律事務所 弁護士

早くから弁護士のサポートを得ることで解決できることがたくさんあります。
後悔しないためにも、1人で悩まず、お気軽にご相談下さい。

初回の打ち合わせは、有料です。
責任をもって、担当者が真剣にお話をきかせていただきます。
初回打ち合わせの目安:30分 5,500円(税込)