はじめに
2019年2月14日に,女性活躍推進法の改正と,パワハラに関する法制化などを内容とする法律案の諮問と答申がありました。早ければこの通常国会に提出される見通しです。今回はその内容のうち,パワハラに関する法制化の動きとその内容について取り上げます。
パワハラの法制化の内容は?
職場でのパワーハラスメント,すなわちパワハラについては,「同じ職場で働く者に対して,職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に,業務の適正な範囲を超えて,精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」という定義が平成24年の「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」でされています。そして、パワハラ概念の要素として,①優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること・②業務の適正な範囲を超えて行われること・③身体的苦痛うう・精神的な苦痛を与えること,または就業環境を害することという3つを挙げています。また,行為態様としては,身体的・精神的な攻撃,人間関係からの切り離し,過大な要求,過酷な要求,個の侵害(集団で一人を監視し孤立化させるなど)の6つの態様が挙げられています。
これらの行為が法的に違法とみられる場合には,加害者側が不法行為責任に・会社や管理者が職場環境配慮義務違反を問われるという形で,これまで裁判でも争われてきました。
ただ,こういったパワハラの定義,概念,行為対等はいずれも提言に記載されていたものの、法制化されないまま推移してきました。今回はこのうち,パワハラについて,事業主が講ずべき措置,国,事業主,労働者の勤めるべき事項,紛争の解決に関する特例や,事業主が講ずべき措置に違反し勧告をされたにも関わらず従わない場合は公表できるとする規定などを新たに設けることになりました。「労働政策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」という過ごし長い名前の法律に規定されることになっています。
事業主(介護事業所など)が講ずべき措置は?
事業主(介護事業所など)が講ずべき措置としては,
・労働者からの相談に応じて適切に対応するために必要なな体制の整備その他必要な措置
・労働者が相談を行ったこと,事業主による相談への対応に協力した場合,事実を述べたことで解雇その他不利益な取り扱いをしてはならないこと
を挙げています。
また,国については,パワハラに関する広報活動,啓発活動,などを講ずるよう努めなければならないこと,事業主については,パワハラに関して従業員の関心と理解を深めるとともに,研修の実施など行い,従業員への言動に注意を払うよう努めなければならないこと,従業員も他の従業員への言動に必要な注意を払うように努めなければならない,などと定めています。
紛争の解決に関しては,都道府県労働局による援助,紛争調整委員会による調停の定めを新たに行っています。 少し前になりますが,平成29年度の労働問題の相談では、職場でのいじめや嫌がらせが6年連続で相談件数の1位になっているなどという実態もあるとされていることから,国としても職場環境の悪化等を防ぐ必要があるとみて,上記のようなパワハラに関する法制化を目指すことになったものと考えられます。
今後,事業主である企業としては,パワハラを防止するためのルールの明確化,社内研修などを通じて周知させること、もしそういった被害等があれば改善をしなければならなくなる義務が出てくるので,そういった体制が取れるように準備をする必要が出て来ます。なお,中小企業については,交付の日から起算して3年を超えない期間で努力義務と定められ,猶予期間が設けられています。
なお,今回のパワハラ法制は,以前コラムで取り上げました,介護事業所等の利用者や家族からのパワハラについては含まれず,あくまでも事業所内の職員間におけるパワハラを対象にしていますので、注意が必要です。
利用者からや家族からのパワハラについては別途法制化等の動きが出ましたらまたコラム等で取り上げたいと思います。