法律のいろは

2017年1月9日 更新残業代・賃金

残業代の先払いを手当てでする際の問題点(その②)

 「固定残業代」という名のもとに,一定の金額が残業代の先払いとして支払われている場合はあるかと思われます。別に名前自体は「固定残業代」である必要はありませんが,残業代の先払いとして,後々での残業代の支払いをなくすためのものとはなります。しかし,以前このコラムでも触れましたが,残業代の先払いとなるためには裁判例上かなり厳しい前提条件をクリアする必要があります。

 この前提条件をクリアできない場合には,残業代を支払ったことにはまったくならないこと・支払ったというお金も残業代の計算をするうえで上乗せ方向で考慮される可能性があるのも以前触れたとおりです。

 

 ここで前回も触れましたように,どのくらいのお金が残業代に当たりどの部分が通常の給料なのか・どの部分までの残業時間に対する支払いとなるのかを明確にしておかないと,全く残業代の先払いがどこまでかがわかりません。そのため,「残業手当込みで○○万円の月給」という記載では全く明確ではありませんし,「残業●時間までの残業代込みで○○万円の月給」でも明らかではありません。このほか,「月給○○万円,残業●時間までの残業代込み」についても,残業代の対象時間は分かりますが,残業代の部分がよくわからないものとなっています。

 こうした形にしてしまうと,特に退職をした元従業員の方からの残業代請求があった際に,少なくとも法律的には厳しい立場に立たされかねないリスクが出てくるでしょう。

 

 また,残業代の先払いであるのかがわからないような「手当」を設ける場合には,それが残業代の支払いの性質を含むものであることをはっきりさせておく必要があります。多くは就業規則や契約書でしょうが,曖昧なままの運用では,先ほどと同じようなリスクが出てきかねません。

 

 このほか,あくまでも残業代の先払いというのは,予め想定した時間(たとえば,残業時間10時間まで)までの残業代の支払いですから,想定を超えた残業があった場合には残業代の支払いがなされる仕組み(及び運用)がなされる必要があります。そのためには,こうした想定残業時間を超えた残業の場合の残業代の清算(追加の支払い)があることが従業員に周知されていないといけません。

 その方法としては毎月の給与明細に記載をするという方法もあるでしょう。ここで注意をしないといけないのは,あくまでも追加の支払いという意味の清算の話ですから,仮に残業時間が想定よりも少なかったとしても「清算」はできないという点です。

 

 なお,それまでの給料の一部を固定残業代に変更するという方法をとっていた場合には,そのこと自体が従業員に周知をされていないと大きな問題となりかねないので注意が必要です。固定残業代を設けることで,残業代以外の給料が法律で定められた規制を下回ることも大きな問題となりかねません。

 

 このように,固定残業代制によって残業代の節約ができるわけでもありませんし,トラブルの可能性や落とし穴となりかねない点があるので,導入や運用には注意が必要でしょう。

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