
前回は,比較的最近の最高裁の判断(旅行添乗員のケース)を触れました。これまでも様々な職種で「労働時間を算定しがたい」場合に当たるのか同課が問題になってきたケースはあります。いずれも,ケースごとの判断がなされていますが,会社に課されている従業員の勤務時間把握義務を負わない場合には,それなりのハードルを設定しています。
これまで問題になったケースの代表例として,金融業における外回りの営業や展覧会での販売業務,短距離の配送業務等があります。このうち,配送業務については,配送コースが定められていること・具滝的な業務内容の指示・タイムカードによる勤務時間の管理などの要素から,「労働時間を把握しがたい」とは言えないと判断されています。
ちなみに,長距離の運送業務では,タコグラフによって運行時間中の走行速度などの稼働状況を把握することや,移動中の指示を無線機で行う,出発や帰った際に業務日報などを書く等の要素があったばあには,同様に考えることができる場合もあり得ます。ただし,会社からの指示が,たとえば,どこへ向かうのかというルート面などの指示がないようなケースでは,勤務時間が把握しがたいケースも考えられないわけではありません。実際には,どの程度の指示が会社からなされているのかなどの業務状況等の把握を会社がしていたと評価できるかが大きなポイントになるものと思われます。
裁判例の状況から見ると,タイムカードによる時間の管理や携帯電話その他による指示や報告の実施,業務日報によって,どこに・いつ行っていたのか等を会社側が把握していたような場合には,勤務時間を算定しがたいとはいいにくい傾向にあるものと考えられます。
会社の事務所外での活動が多い,「営業」の仕事においては,細かく把握しようとすることは,業務の質を改善するために重要な要素を持つことは十分考えられることです。ただし,仮に残業代の請求がなされた場合に,言い分をして事業場外で仕事をし,勤務時間が算定しがたいから,残業代が発生しないという反論を出すにしても,こうしたリスクを抱える点の注意は必要でしょう。
近年は,会社の事務所に来ないで勤務をする在宅勤務の形も増えてきています。この形態も事業場外で勤務をすることになりますが,どういった場合に,勤務時間が算定しがたいといえるかについて,行政の考え方に言及しつつ,次回触れたいと思います。