残業代の支払いをしないということで,多くは元従業員の方が会社に対して請求をする場合,裁判所の手続きには,主に2つのものがあります。それは,労働審判と呼ばれる主として話し合いを図っていくもの(話し合いがつかない場合には一応の判断が示されます)・通常の裁判手続き(訴訟)があてはまります。
特に,通常の裁判手続きを従業員側に選択された場合には,お金の面について負担になる可能性のあるところが2つ存在します。一つは,付加金と呼ばれるものです。これは,裁判の判決において裁判所が支払いを命じることがあるもので,最高で認められた残業代(ただし,マックスで2年分)と同額の支払いを命じられる可能性があります。
いくら支払われる可能性があるかは,未払い残業代の金額や裁判での対応,その他さまざまな要素が考慮されて決められます。絶対にいくら支払いを命じられるというのが決まったわけではなく,あくまでも裁判所の判断で支払い義務を負うのかどうか決まるというものです。
比較的最近の裁判所の判断では,裁判の最中に会社が未払い残業代を支払った場合には,こうした付加金の支払いを命じることはできないとしたものがあります。補足すると,裁判で争っていて,一審で裁判所から残業代の支払いを命じられた場合に,控訴はしたものの残業代を支払った場合が典型的なケースです。付加金はあくまでも裁判所が支払いを命じて,支払い義務が生じるものですから,裁判所の判断が確定(控訴などしないか・最高裁の判断が出る等)しないと支払い義務は生じません。
ちなみに,付加金は残業代とは異なって,支払いを求めたからと言って時効がリセットされるということはなく,裁判を起こすまでの期間2年分にあたる部分しか請求はできないものになります。
もう一つは未払いである間につく利息(遅延損害金)に関するところです。わかりにくい点がありますが,商取引に関するものとして1年あたり6%が生じることになります。面倒なのは,ふつうこうした請求は元従業員の方が退職後にしてくる可能性が高いのですが,退職日からの未払いに対しては,法律上1年あたり14.6%の利率がつくという点です。このご時世にこれだけの利率がつくのは極めて負担が重いことになります。
ただし,さらに面倒なのは,この14.6%は,合理的な理由で未払い残業代が存在するのか・金額を争っている場合には利率が低くなります。これは,通常裁判で争っている場合は該当します。残業代の対象となる労働時間を争う・残業代の支払い義務を負うか問題になる場合(管理監督者に当たる・外回り営業で生じない場合である)が典型的なケースです。ただし,管理監督者・外回り営業で生じない場合には限界がある(前者は深夜労働,後者はこれに加えて休日労働等)点には注意が必要です。
このように,残業代に関しては,裁判手続きで請求された場合には,会社にとって新たなリスクが生じる場合も出てきかねないのには注意が必要です。