就業規則は法律上の一定のポイントを満たせば雇用契約の内容になることから,就業規則を変更して給料面を含めた内容を変更することがあるかもしれません。また,それにあわせてかどうかはともかくとして,雇用契約を新しい内容で結びなおすこともあるでしょう。
就業規則を変更する形で雇用条件を従業員の不利益な内容に変更する際には,法律上様々な制約があります。この詳細は,本コラムの別の個所で詳しく触れています。これに対し,契約を新たに結ぶ際には,会社側と従業員側が合意をしていれば基本的には問題はありません。ただし,会社側の方が有利な立場にあることから,裁判例上,特に従業員にとって雇用条件などが不利に変更される場合には,契約が有効かどうかに縛りがかかる可能性があります。
比較的最近の裁判例でもこうした点が問題になったケースがあるので,簡単に紹介いたします。問題となったケースでは,未払いの残業代の請求がなされた事件について,残業代の計算をするうえでもととなる手当や給料がどこまでであるかが問題となったものです。他にも勤務時間などの争点もありますが,ここでは省略いたします。
残業代の元となる手当などは住宅手当などの個人的な支払いに関するもの・固定委残業代部分等法令などで定められています。このケースでは,就業規則の変更とともに新たに結ばれた雇用契約で新たに定められた手当が,固定残業代の役割を果たすものです。そのため,新しく結ばれた雇用契約が有効であれば,この手当部分は残業代の計算の基礎から外れます。無効であれば,計算の基礎に含まれることになります。
この際の給料体系の変更では,そもそもの総支給額は変更前と変わらないものの,固定残業代部分ができたことで残業をした場合に給料面で大きな差が出ることになりました。当然,一定の残業代が前払いされていますから,ある時間まで残業をしても残業代は追加で支払われないことになります。また,残業代の基礎となる給料が減りますので,それ以上残業をしても,残業代の金額は減ることになります。
裁判所は,こうした点をもって従業員に不利益な内容に雇用条件を変更する新しい契約の締結であると判断しています。そのうえで,こうした大きな不利益(実際には新しい手当てが給料全体の30%に及ぶものでした)な変更を有効とするには
①単に契約の合意をする
だけではだめで
②従業員が自由な意思で合意をしたということを裏付ける客観的な根拠
が必要と判断をしています。生活基盤を支える給料を下げかねない内容の合意はふつう自発的にはしないだろうという前提に基づくものと考えられます。
このケースでは,先ほど触れました不利益の内容を踏まえたうえで,合意をする前に会社側からなされた変更後の給料などの点の説明内容などについて事実認定をしています。つまり,給料が実質下がる内容の給料変更がなされたことの具体的な説明をしてそのことを了解したうえで,合意をすることが必要という内容になります。
実際には,変更前後で基本額が変わらないこと程度と新しい手当てが設けられたこと程度の説明しかなされていないケースが多いと思われます。また,説明内容や理解したかどうかの確認がされていなかったり,記録に残されていないケースも多いのではないでしょうか。
このケースでも,こうした点の説明や理解が曖昧であったことを理由に,合意が無効と判断されています。
給料など勤務条件を変更する際には,リスク回避のための措置をとっておくことなどがyお分な紛争を避けるといえるかもしれません。