会社の事務所の外で仕事をしている方について,労働時間の把握が困難である場合に,一定の時間を働いた扱いにできるという法律の定めを,前回・前々回と触れてきました。多くトラブルになるケースで問題になることが多いと思われるのが,実際に労働時間の把握が困難といえるかどうかという点です。
これまでもこの点について,多くの裁判例がありました。ここ数年で最高裁で一つの判断が出されていますので,今回はこのケースを紹介したいと思います。
問題になったのは,企画型のツアーを行う旅行会社に派遣される添乗員の方が勤務先である派遣会社に残業代を請求したケースです。労働時間の把握が困難であることを理由に,通常の労働時間では勤務が困難であるために一定時間の勤務をしたものと扱う形でのみなし労働時間制度の適用があるかどうかが大きな争点となりました。ちなみに,この制度の適用があっても深夜労働や休日勤務の割増賃金は発生します。
この争点について,第1審は労働時間を把握しがたい場合に当たると判断しましたが,第2審以降は当たらないと判断されています。
最高裁の判断基準としては,業務の性質や内容,どのようにこなしていたか,従業員と派遣先との間の報告や指示の状況等をもとにします。その業務において会社側(このケースでは派遣先が派遣元である勤務先の会社に対して,始業や終業の時間などを記載した台帳に基づいて報告しています)が,勤務状況を具体的に把握するのが困難であったかというものです。困難であれば,労働時間を算定しがたい場合に当たります。
この判断基準にあるように,問題となった従業員が行っている仕事の状況や報告管理が具体的にどのようになされたのかなどが大きなポイントとなってきます。
このケースでは,ツアーあることもあり,どこにいつごろ寄るのかという予定表があらかじめ作成され,大きな変更は補償金の発生につながりかねませんので,できるだけ避けるようにという決まりがありました。やむを得ない事情などがあれば,派遣先の会社に報告をすることになっているという事情もありました。その日ごとの業務日報を書き,ツアーが終了したらその報告を派遣先に行うという点を含む添乗員としての仕事をするというものです。もちろん,添乗マニュアルも存在しています。
こうした点からは,マニュアルや予定表その他の決まりで具体的にいつどこで何をするかは大まか決まっていますし,緊急対応の場合には派遣先に報告をすることになっています。また,日報や報告を都度行うことから,いつ・何があったのかなどの把握はそうは難しくない状況と考えることはできます。派遣元は派遣先を通じてこうした事情を把握できるということから,裁判所は労働時間を把握するのが困難とは言えないと判断しています。
従業員の方を管理しつつ,無駄をなくしリスクを避けるという管理の在り方が,このような勤務実態の把握が難しいとは言えないという方向につながっている側面があります。みなじ労働時間制を適用するのがいいのか,業務のリスクや無駄をなくすのがいいのかは難しい点があります。