法律のいろは

2025年2月26日 更新労働問題のご相談

業務委託契約で競業避止義務を定めることの問題点とは?

競業避止義務が問題となる場合とは?

 競業避止義務とは,雇用契約の場合には契約上の誠実義務などの一環として,競業他社のために稼働をすることや自社と利益が反する行為をしてはならないという義務内容です。違反には賠償請求や懲戒処分(雇用契約の場合)で対応することもありますが,特に退職後に義務を負わせる際には,有効性が問題になることがあります。退職後にまで転職の自由への制限となってしまうこともあり,相当の必要性や代償措置の範囲などが必要になる等,有効となる点に相当のハードルがあるように思われます。

 

 また,フランチャイズ契約などの場合にも,契約において定められることが通常です。ケースによっては条項の有効性が問題になることはありえますが,無効となるハードルは高いように思われます。

 これに対し,業務委託契約の場合には,専属といえる場合(競業避止義務などの合意がある場合)以外には,どこの業務を行うかは自由であるため,当然に競業避止義務を負うわけではありません。専属という合意を行うことも自由ではありますが,経緯や内容によっては無効になる場合もありえます。

雇用契約から業務委託契約に変更した場合には?美容業における最近の裁判例

 稼働している従業員を雇用契約から業務委託契約へと変更してもらう場合,両者の違いに注意する必要があります。業務委託の場合は,自社の業務を行ってもらうという点では雇用契約とは同じですが,指揮命令を受けない点や場所・時間の拘束を受けないという点で雇用契約とは異なっています。要は,自由な裁量が極めて大きいかどうかという違いです。このほか,残業代や勤務時間規制その他労災の規制等雇用関係に関する規制は及びませんが,契約の名前を替えればいいという話ではありません。実体が自社専属で,指示など細かく与えている・雇用契約の時と基本は変わらないということであれば,実質は雇用契約として規制を受けることになります。

 つまり,思わぬリスクを負うという点があります。

 業務委託契約へと変更した場合には,雇用契約とは異なり,競業避止義務というものを契約中負っていないのが基本になります。別途合意をすれば,その合意に基づき有効となるのが原則ですが,常に有効というわけではありません。実質雇用契約から業務委託契約に名前のみが替わり,重い競業避止義務を課すことで営業の自由を奪うような場合・変更に関して従業員側に選択権が事実上なかったときなどには無効になる可能性があります。

 比較的最近の裁判例として,東京地裁令和5年6月15日判決・判例タイムス1527号・227頁は,こうした点が問題になったケースです。簡潔に触れれば,美容室で働いていた従業員の方について,雇用契約から業務委託契約に変更し,業務委託契約終了後一定期間までの競業避止義務を負うという合意の有効性が問題となったものです。こうした合意の有効性が問題になるのは,違反の有無があるかどうか,損害賠償請求を自社(このケースでは美容室)が行う場合です。合意が無効であれば,違反はないということになります。無効かどうかという点は,契約(雇用から業務委託・競業避止の合意)に至る経緯や代償措置・内容等が問題になるところで,このケースではこれらの点も争点となっています。

 細かくは触れませんが,雇用契約から業務委託への変更などを余儀なくされるやり取りがあったのか・それに伴い不当な競業避止義務を課されたのか・代償措置があったといえるのかどうか等の観点から,考えていくとされています。ただ,美容室側と従業員側で対等とは言いにくい点があることを想定しています。結論から言えば,雇用が9年近く続いていたところで変更を余儀なくされたこと・競業避止義務の内容が一定程度重いこと・代償措置についても十分なものではない(雇用契約中でも認められていた内容や変更に伴って生じる負担の一部支援程度)ことが挙げられています。

 

 変更を行うことが当然にダメというものでもなく,ケースごとの事実関係によるという話にすぎませんが,変更をするだけの理由(単に説明会をすればいいというわけでもない)・変更とともに義務を課すならば,その内容や代償措置は十分といえるかどうかの吟味は重要になっていきます。威嚇効果を考えて,制度を設けるにしても,重い内容は請求をした際にしっぺ返しを受けるリスクがありますので,バランスなどを考えておく必要があります。

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