従業員の昇進や昇給・減給などをどのように行うために,仕事の遂行上状況や能力・業績を評価するのが通常で,そのために人事評価(考課・査定)を行う会社が大半かと思われます。どのような評価システムを使うかは各事業者の事情により異なってきますが,公平性と効率的な評価ができる点は重要なポンととなってきます。システムを規定・就業規則に入れ込んでいる事業者も多いかと思われますが,こうしたシステムの内容もさることながら,運用がどのようになされているかは,人事評価(考課・査定)が意味を成しているかどうかを考えるうえで重要になってきます。
こうした人事評価(考課・査定)のシステムや運用には,男女の差別禁止・思想などで差別をしない・正社員と同視されるパート労働者を正社員と差別しない等法律上の強い規制が及んでいる(こうした規制に反したシステムや運用が無効という扱いを直ちに受ける)以外は,会社側の大きな裁量に任されています。裁量に任されているという点は,運用上一定の場合に限界を超えて無効となる場合があるということを意味しますが,その点のハードルは争う側(多くは不利益な扱いを受けた従業員側)にとって大きくなります。
法的なリスクという点と文句をなくして会社の士気を高めるという点は同一のものではありませんが,ここでは法的リスクという点から触れていきます。
こうした裁量の逸脱と認められたケースとして,システムの枠組みを逸脱した運用・評価の前提となる事実を誤っていた・不当な目的をもってなされた運用・重要視すべき点を見視して軽視すべき点を重視した運用が挙げられます。実際に,裁判まで問題となったケースは最近でも多く,今あげたものはその概略を簡単にあげた形になります。
ちなみに,就業規則を変更して人事評価システムを変える場合に,従業員にとって不利益になる可能性がある事項が含まれる場合には,その変更が有効かどうか後で争われる可能性があります。これは,別のコラムで触れますが,就業規則を従業員側の不利益な内容(不利益な内容化自体が争いの対象になる可能性も十分にあるところです)に変更する場合には,その効力が有効になるかどうかは法律および以前の裁判例で出てきた基準に従って判断されますから,こうした点をクリアできるかどうかは事前に想定をして対応をしておいた方がいいでしょう。
比較的最近,人事評価(考課・査定)の効力が問題になったケースを簡単に紹介します。新幹線運転士の非違行為を理由とする賞与の減額評価を会社側がしたことに対して,当該運転士の方が裁量を逸脱した査定をしていることを根拠にその無効を求めたケースがあります。実際には,無効であるために本来支払われる賞与の一部が支払われていないからその部分を請求したものになります。
このケースでは,非違行為に該当する事柄があったかどうかといった事実面のほかに,裁量を逸脱した理由として次の2点を従業員(運転士)側は主張しています。①賞与の減額処分がなされるなら,同等の懲戒処分がなされるのと同じような非違行為が存在しなければいけないのに,そうではないのはおかしい②事前に査定を争う機会がないのはおかしい
こうした点に対して,①は査定と懲戒処分の異質さ・②は査定における会社の裁量の広さから事前に争う機会を与えるかも会社の自由と述べて,従業員側の言い分を退けています。結果として,従業員側の請求は退けられています。
このように,人事評価(考課・査定)は現在でも業務の効率的運用のため以外に法的リスク面でも問題になっており,その対応を考えていく必要があります。