法律のいろは

2022年7月29日 更新労働問題のご相談

外国人技能実習生への資格外活動への業務従事命令が,実習実施の会社や監理団体に賠償責任を生じさせるとされたケース

○技能実習法や入管法上の義務は賠償責任の根拠となるのでしょうか?

 外国外国人雇用は新型コロナウイルスの流行で入国制限が課されたこともあり最近は前と比べれば低調かもしれませんが,外国人技能実習生や新設された在留資格特定技能その他仕事をするために在留する在留資格に関し,ここ数年様々な裁判例が出てきています。

 主に労務関連の問題が多い印象がありますが,最近は必ずしも雇用主に問題があるという裁判例ばかりではないように思われます。そうした中広島の企業に関する外国人技能実習(ただし,問題となる出来事は数年前)に関する裁判例(広島高裁令和3326日・1審は広島地裁令和2923日)が出ています。実習実施期間(雇用主)だけでなく,監理団体にも賠償責任を一部認めているものです。在留資格特定技能が設けられた際に入国管理に関する法令や労務関連の法令などの順守(技能実習に関するものも含む)が強く求められる形になったところでもありますので,触れていきます。

 

 

 技能実習法や入管法では,日本に在留するための要件(仕事などを行うための資格や身分に応じた資格が大きく言って存在します)や手続きを定めるとともに,日本に在留する際の規制を設けています(届け出や護るべき点など)。この規制は在留したいという外国人の方に及ぶ面もありますが,不法就労(資格外活動やオーバーステイ)を助長する行為を規制する(雇い主なども規制する)規定も存在します。

 ここでのペナルテイは刑罰や退去強制(在留資格の取り消し)・しばらく技能実習生や特定技能の方を受け入れられない等,規制を受ける方に応じて様々存在するところです。

 

 ただ,これらの義務はあくまでも日本への出入国や在留の管理を行うための規制であるので,規制の違反が当然に民事での損害賠償の原因とはならないという点があります。ただ,業務と結びつく・雇用契約と結びつく場合には,適法に在留できることが雇用契約での業務提供の前提となる面がありますので,その規制の内容や雇用契約の内容いかんによっては雇用主が民事上守る義務(違反して損害が生じた場合には賠償義務の原因となる)可能性があります。

 

 また,監理団体とは,在留資格:技能実習において設けられているもので,技能実習における技能の移転などを図るために,援助を行うこととされています。その内容は技能実習生の受け入れと実習の計画作成や受け例示の教育研修・計画通りに実習がなされているのか違反がないかどうかを監理する業務と関連する義務が課されています。この違反も場合によっては民事上の賠償請求の原因となる可能性があります。もちろん,基本は技能実習制度の運営のための規制ですので,違反≠賠償の原因ではあります。

 ちなみに,技能実習の多くは団体監理型(もう一つ企業主導型というんものが存在します)という監理団体による管理を受けるものですし,今回触れるケースもそうなので,以下では団体監理型を前提とします。

○問題となったケースとは?

 

 判決文から読みとめれる事実関係の概略は以下の通りです。飲食業やパンの製造などを営む会社が外国人技能実習生を受け入れて,雇用契約(技能実習計画)に基づいて業務に従事してもらっていたところ,資格外活動ということでその外国人が逮捕(などされたことについての賠償請求や未払い賃金の支払いを求めたものです。実習の監理をしていた監理団体も賠償請求を求められています。

 

 技能実習に限りませんが,業務系の在留資格の場合,大半は許可された在留資格に応じてつくことができる仕事の内容は決まっています。この資格に応じた業務以外の業務につくことは資格外活動と呼ばれ,許可を得ていない限りは行うことができません。資格外活動も不法就労というものであって,刑罰を受ける可能性や退去強制(日本から出ていく羽目になること)になる可能性があります。

技能実習制度は1号から3号が成熟度に応じて存在し,2号までは他の雇用主との契約をすることは原則できません(転職に大きなハードルとなります)。

 技能実習制度においては,指定されている移行対象職種の中で特定の業務を行うものとして在留が許可されています。そして,コアとなる業務や関連する業務や周辺業務が定められています。コア業務以外は従事できる時間の割合に上限があります。コアとなる業務以外の業務には従事できる一方,実習に与ぐ技術の習得という建前から,他の業務を行うことに制限が存在します。この制限を超えると資格外活動として不法就労ということにつながっていきます。

 

 このケースでは,パン製造をコア業務とする実習生の方が,飲食店などの業務に従事したことが資格外活動であるとして,不法就労罪での逮捕や勾留を受けた(このケースでは不起訴で釈放となっています)⇒他の実習先での勤務を余儀なくされた(実習ができないやむを得ない事情があれば転職は可能)等のことについて,実習生側から雇用主に賠償請求をしています。

 監理団体は実習の監理を行い,定期的に監査(実習計画に沿った実習か・法令違反などが存在しないのか等を調査し指導する)を行う等の義務があることから,このことを適切に尽くさなかったことについて実習生から監理団体に賠償請求もなされています。その他他の請求もありますが,今回は監理団体と実習先である雇用主への賠償請求のみ触れていきます。

 

 賠償請求との兼ね合いでいえば,問題となった点は①雇用主について,入管法の規制にある資格外活動にあたる業務命令を出さないことが雇用契約上の義務になているのか・違反が存在する場合に報告などを怠ったことも同様の義務となるのか等の点です。②監理団体は,資格外活動への実習生の方が従事させられることを制止する・実習計画と異なる業務への従事を止める義務があるのかどうか(民事上の義務といえるのかどうか)という点です。そのうえで,どこまでの損害があるのかが3点目として争点となっています。

 結論から言えば,1審・2審ともに①・②について,雇用主・監理団体の義務違反を認め賠償責任は認めています。ただ,賠償請求が認められるには責任が認められても損害額(責任との因果関係の存在)が認められないと意味がありません。資格外活動によって逮捕などがされて稼働されないのであれば,そこは因果関係はありと言いやすい(実際判決も認めています)のに対し,きちんと転職をできたのであればそこには損害がないこととなります。このケースでは1審で認められた損害の範囲よりも2審で認めらた損害の範囲の方が幾分広くなっていますが,今述べた範囲での話になります。

 

 

 ここでは,雇用契約の内容が在留資格や日本に適法に在留できることが前提での就労になっているため,その契約上の文言(期間雇用であり・業務も通常限定されます。技能実習の場合には技能移転の為に実習計画に依拠した雇用契約の内容になること・契約内容に入管法などの規制や行政の指針の影響を強く上,契約内容にも影響を与えることがその根拠となります。法律で技能実習生の利益を守ろうとしている点が,利益の侵害に賠償請求を認めることになります。ちなみに,同様のことは在留資格:特定技能にも影響を与えるものと考えられます。技能移転を目的とはしていないものの,特に1号を中心に保護を目的とした規定が存在し,契約内容にも影響を与えるためです。

 

 監理団体についても,監理業務を行う上での規制が法令や指針で行われ,監理を行うための委託契約にもここが強く影響します。監理契約自体は監理団体と実習実施機関である雇用主との間のものですが,実習生の先ほど述べた利益が法怯上保護されていることからすると,監理や指導等の規制からは先ほど述べた制止義務を果たさないことで賠償責任の根拠となりえます。この責任は民事上の不法行為の責任と呼ばれるものです(必ずしも契約を前提にはしません)。

 

 このケースで認められた損害額は必ずしも高額ではありませんが,裁判を含めた対応のコスト・技能実習生を当面受け入れられないリスク(特定技能についても同様,入管法や技能実習法によるペナルテイです)・報道されるリスクがあります。監理団体は許可の取り消しのリスクもありえます。

○資格外活動になる業務命令を出すことのリスクと対応点

 

 このケースでは,判決文からは,監理団体は雇用主の管理の下で・許可された業務以外の業務であっても,その業務に影響がなければ別の業務を行わせても構わないとの助言をした話が出ています。規制では実習の意味を持たせることもあって,中心業務(許可された業務)以外の業務は周辺業務など限定されており上限も存在しています。したがって,このような助言には誤りがあると考えられますが,このほかに定期監査等の書類チェックから他の事業場や業務への従事の可能性がうかがえたらチェックと指摘を行うべきとされています。

 監理団体の監査の際のチェックや助言には,規制からの逸脱(特に雇用契約の実行につながる資格外活動や違反の存在)がないようにすることが重要になります。チェックをして違反の可能性がうかがわれた場合にこれらの義務を負うことになるので,監査その他には注意を行う必要があります。

 

 また,資格外活動であっても稼働による収入を得たいという要望が技能実習生の側から出たとしても,最終的に資格外活動の業務を行うにはその業務命令(雇用主からの命令)が必要となります。要望に応えることが業務命令を出したということにもなり,結局法令違反を理由に先ほど述べたリスクを負うことになるのであれば,こうした要望に応えるのはリスクが相当大きくなります。

 

 申請その他の書類関係では規制クリアは簡単にできるようにも見えますが,運用実態を誤ると今回触れたような話へとトラブルに至りかねませんので,注意が必要です。入管法の規制が在留時の規制を設けるようになり,雇用主の義務があるパターンでは今回の判決と同様に言える必要がありますのでなおさらです。

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