法律のいろは

2022年3月23日 更新労働問題のご相談

残業管理と労災での会社側の賠償責任への影響

残業や業務が過大であることの労災や会社側の責任への影響

 残業時間(深夜や時間外・休日勤務)が多いことや業務の負荷が大きい(負担のかかる業務や周りからのプレッシャーが大きな業務)は,従業員の方の心身への影響がかかる可能性がある要素の一つです。心身の疾病(脳血管系のものや精神的なもの)の原因ともなりうるもので,労災認定における相当因果関係があるのかどうか・会社側の義務違反があるのかどうかで争いになったケースは相当数あります。

 

 このうち,労災の認定に関しては,脳血管系・心臓疾患に関してそれが業務上生じたものと言えるのかどうかは通達が示されています。長時間勤務や質的に負荷のかかる業務かどうかは,疾病が生じた方と同レベルの方・基礎疾病を持っていても日常業務を問題なくこなせる方を基準に考える・業務上の過重負荷の影響が基礎疾病が自然にひどくなったのと比べて相対的に有力な原因と評価できる場合に生じた疾病と業務上の過重負荷の相当因果関係を認めると考えています。裁判例では,この行政サイドの考え方を参考にしつつも,ケースによっては独自の事実認定と考え方をとる場合もあるとされています(菅野和夫,労働法第12版・656頁にも同様の記載があります)。事実がどうであったのかという点とその評価双方が争いになる場合も多く,行政側の調査とそれに基づく認定が裁判で変わるのはそう簡単ではないように思われます。

 生じた精神面での疾病が業務上の過重負荷によるものかどうかも,行政側の指針が示されています。ここでとられている考え方は,「ストレスー脆弱性理論」に依拠しているものとされています。この理論は簡単に言えば,精神的な疾病の原因は環境由来の負荷原因とそれぞれの方の持つストレスへの脆弱性との関係で決まる・負荷やストレスが大きければ個別の方の持つ脆弱性がなくても精神的な疾病に至るし,負荷やストレスが小さい場合には個別の方が持つ脆弱性が大きいため精神的な疾病に至るという考え方です。この考え方との基に,業務との兼ね合いで生じる対象疾病に実際に生じた疾病が該当すること・発病前6か月以内に業務上で強い心理的負荷が生じていたこと・業務上の負荷以外に負荷・ストレスの原因がないこと,をその病気が業務上の原因で生じたといえるための要件としています。近年パワハラに関する法制化などを契機に一部心理的負荷の記載内容などが変更されましたが,大きくは変わっておらず,長時間労働の存在やパワハラに該当する事柄などは業務上の心理的負荷の要因となりうるものとして挙げられています。

 

 長時間勤務が続くことは労災の原因となるものですが,労災(業務上の原因で疾病が生じたこと)と会社側が民事の賠償責任を負うかどうかは別のものになります。会社側には安全配慮義務という職場環境を整えることでこうした業務上の疾病が生じないようにしている義務があるので,残業が長く続いていた・少なくとも年1回はある健康診断での異常所見や業務に関する相談などに手を取っていなかった場合には,こうした義務違反になる可能性が高くなります。

残業管理での注意点とは?

 先ほども触れたように会社は職場環境を整理するとともに運用する義務があります。長時間勤務やその他業務上の負荷については,問題となる従業員の方にうつ病の傾向その他健康診断での問題や相談が出ている場合には業務を抑える義務が出てきます。その中身としては,問題を伝えていわゆる残業をしないように伝える・業務の量を調整する・負担のかかる業務からそうではない業務へと仕事内容を変更するなどの事柄が考えられます。問題はそれで足りるのかどうかという話になります。

 

 裁判例の中(大阪地裁平成20年5月25日判決・判例時報2032号90頁)には,ソフトウェア開発に従事していたシステムエンジニアの方が長時間勤務が続く中で,会社側が長時間労働を認識しながら,単にやめるようにという注意や配置転換を申し出ただけでは義務を果たしたとは言えないとして賠償を命じたものがあります。判決文からは,先ほど述べた注意に対して従わず勤務を続けうつ病にり患して勤務が難しくなったというもので,従業員側の落ち度が過失相殺という形で賠償責任額の減少要因として考慮されています。

 ここでは,残業禁止を伝えることや勤務場所へ入ることができないようにするなどの対応が求められています。会社側には勤務時間を把握する義務やいわゆる働き方改革により残業の上限が決められたこと(この上限が先ほど触れましたか労使の水準に近いという点はあります)から,勤務時間を把握し長ければ積極的に短くする必要があります。人の確保の問題もありますので,法令責任とは別の次元で職場環境を改善するということも考慮要素にはなるでしょう。こうした規制に加えて,健康診断での結果や日常業務における様子の把握等によって問題発生を抑止するとともに発生した場合に法律上の責任を負わないようにしていく必要があります。

 

 働き方改革による一連の法改正により,従業員の健康確保のための労働安全衛生法の改正が行われました。長時間勤務(月80時間以上の時間外労働)について健康確保のための産業医などとの面談が義務付けられるとともに,健康情報の提供や勧告を受けた場合の対応が求められることとなっています。時間管理だけではない健康把握や是正対応も義務付けられる方向となっていますので,この点の注意も必要でしょう。

 

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