法律のいろは

2021年10月5日 更新労働問題のご相談

システム開発の委託契約が,労働者派遣契約(偽装請負)となり規制を受けないように注意するには?

はじめに

 契約の名目上は業務委託契約とされているけれども,実際には時間や場所の拘束があり実態が雇用契約(別の業者から派遣されている場合には,労働者供給・労働者派遣契約)ではないかが問題になるケースは相応に存在します。

 時おり,行政から処分が出ているものも存在しますし,期間途中での契約終了が,雇用契約であるがために終了が無効であるかが争われるケースも存在します。これまで,こうした契約形態や終了事由の存在に加えて,特に労働者派遣契約などに該当するかが問題になる場合には,法令上の派遣先が派遣労働者に直接申し込み義務を負うかどうかが問題になることもありえます。

 これは,直接申し込み義務を負う場合には,派遣先と派遣労働者との間に雇用契約が成立するために,それに伴う義務や権利関係が生じることになるため,重要な意味を持ちます

雇用契約か請負・業務委託契約にあたる基準とは?

 これまで様々な裁判例及び行政解釈が存在します。一般に裁判例上は,指示された仕事を断ることができたのか・時間的場所的な拘束の有無・業務遂行上指揮監督の有無・代わりの人を業務につけることができたか・報酬が時間拘束に対する性格を持っていたのか,等を実態に即して判断しています。今回問題になったケース(東京地裁令和2年6月11日判決)でも同様の観点から判断をしています。

 

 このケースでは,ソフトウェア開発の業務を会社の間で委託し,受託した側が紹介した個人が開発業務に従事するとされているものでした。委託期間が定まっており,業務場所を発注者の事業所とし発注者が業務の指示や報告を受け検収等を行うとされていました。報酬額は定まっていたものの,清算が必要な業務時間と不要な業務時間(少ない業務時間で済んだ場合には返還を行うというもの)がなされるという項目が設けられていました。

 この契約自体は業務委託契約ですから,雇用契約あるいは労働者派遣契約で必要とされる書類や契約条項が取り交わされていることはありませんでした。契約に基づく業務の進捗が遅れているとのことで,途中で契約終了が行われたことから,業務に従事していた個人から,①照会をした先に雇用契約を前提とした雇用契約終了の無効と未払い給与の支払い②業務の委託先に対して,違法派遣を免れる目的があるという派遣先から業務従事する方への直接雇用契約申し込み義務がある場合にあたる(から,申し込みを受けて雇用契約が存在し,契約終了していないから未払い給与の支払いを求める)などということで,裁判となったものです。

 

 このケースでは,業務の報告や時間・場所の拘束,報酬が時間単位で清算されていたという実態が認められやすいケースであったために,①について照会元との間に雇用契約が存在し,発注先に派遣されて指揮命令を受けたものと判断されています。請負契約や業務委託契約でもその業務の性質上検収や業務の性質上受ける指示というのが存在するため,裁判例の多くではこの業務上要求される程度を超えるのかどうかが問題になっているケースは多く存在します。先ほどの裁判例のケースでは時間拘束や報酬と時間単位の関係が言いやすかったという特徴があります。

 

 雇用関係が肯定されると,雇用契約の終了原因が認められるかという問題があります。契約期間の定めがない雇用契約でよくあるタイプでもハードルは法令や裁判例上高いところですが,契約期間が定められているとさらに高くなります。ここでは「やむを得ない事情」が要求され,今回取り上げる裁判例のケースでも終了原因は認められない⇒未払い給与ありとされています。

 

派遣先との雇用関係は?(直接申し込み義務がある場合にあたるかどうか)

 東京地裁令和2年6月11日判決のケースで特徴的な点は,直接申し込み義務があるケースにあたるかどうかが争われた点です。こちらは,労働者派遣法に定められたケースにあたるかどうかという点で問題となります。

 具体的には,労働者派遣法40条の6の各号に定める場合にあたるかどうかという話になります。この条文自体は6つの場合を定めていますが,今回問題となったのは実際は労働者派遣契約であるにもかかわらず,労働者派遣法(労働基準法の特例部分を含む)の規制を「免れる」目的で請負契約など他の形態の契約名目にしたのかどうかが問題となりました。この「免れる目的」が認められると,実態が労働者派遣契約であり,業務委託を言う別の契約形態を使っている以上,派遣先には直接雇用の申し込み義務が出てくることになります。

 

 したがって,「免れる目的」とはどのような場合に言えるのかがここでのポイントになってきます。結論から言えば,このケースでは裁判所は「免れる目的」は認められないとして,派遣先との雇用関係を否定しています。

 

 裁判所の判断では,契約名目で逃れるという実態に加えて,主観的に免れる目的を要求しており,この目的は契約締結時に契約締結の権限を持つ方の認識で認められるのかどうかを問題としています。別契約を使って規制逃れを図る目的があったのかどうかは,契約の時点しか問題になりませんし,契約締結を決める方についてどのような目的や認識があったのかがわからないと法人組織ではわからないことになります。主には,小さい会社では社長・権限を任されていた別の方がいればその方になります。

 認識や目的は主観的な話なので,契約締結前後の客観的に存在する事情(特に締結前)から見てどのような認識を持っていたのかを考えていくことになります。規制逃れという意向を持っていたかどうかとなると,当然規制違反が存在していることを理解していることが前提となります。規制違反を認識していたことがわかる資料あるいは行政機関などからの指摘がないと,そうした理解はないのが通常でしょうから,このハードルは相応の高さを持つことになるでしょう。

 

 ちなみに,雇用契約が派遣先ともあったかどうかは,こうした直接申し込み義務がある場合だけでなく,採用決定や解雇決定・給与決定などの雇用契約の決定的な要素を派遣先が持っていたかどうかが重要になります。このケースでは事実認定からはそうは言えないというケースでしたが,裁判例の中にはこうした要素の有無が問題になったもの(決定的な要素を持っていれば,雇い主であったという話に先ほどの直接申し込み義務の話とは別につながります)も存在します。

 

 

 このように,雇用契約なのかどうか・誰との間の雇用契約なのか・仮に労働者派遣契約であったとして規制逃れの問題やペナルティ,契約関係への影響がどうなるのかを考えておく必要があります。特に問題の指摘がよくある業界では注意の必要があります。

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