法律のいろは

2021年7月1日 更新労働問題のご相談

社内研修や教育を行う際の注意点とは?

○社内研修や教育を制度化するには?

 

 職場内の従業員の能力開発をどのように行うのか・その制度設計は基本的には会社が自由に定めることができます。制度化を行うには就業規則にその内容(どのような方に・どういった手続きで研修などを与えるのか等)を定めておけば制度化されますので,そのルールに則った運用をしていく必要があります。

 制度化された場合には,就業規則が雇用契約の内容にもなりえますから,違反が契約不履行その他法令違反(労働関係の法令規制違反)・運用の仕方によっては様々な理由による損害賠償請求の原因ともなりかねません。

 

 雇用契約の内容になるということは,従業員側からこういう研修や教育内容を受けることを求め権利が生じるのかという問題も出て来ます。こちらは,就業規則で定められた内容にもよりますが,会社側が一定の裁量判断で必要な研修を受けさせるという内容で規定されているとなると,簡単に求める権利があるとは言いにくくなります。原則として,従業員側は業務で必要な研修を定められると受ける義務が生じます。

 もちろん,福利厚生もかねて様々な研修を選択できるという制度を設けることも可能です。実際にどうするのかはリスクの問題なども踏まえての経営判断になるでしょう。

○社内研修や教育内容で法的問題が起きる場合はあるのでしょうか?

 

 研修や教育で問題となるのは,正社員とパートその他の従業員で異なる扱いが存在するケース・研修の内容が特定の思想を押し付ける,教育の目的や経緯が正当とはいいがたいケース・運用面でいわゆるブラック研修とも呼ばれる社会人・従業員教育の名のもとに人格否定の言動を行う,無理な行動をさせる場合が考えられます。

 

 正社員とパートなどの異なる取り扱いは,いわゆる「同一労働同一賃金」の規制に基づくものです。教育や研修の目的に照らし,正社員とその他の方の業務や責任・人材活用の仕組みなどから不合理といえるかどうかが問題となります。合理性を基礎づける理由の説明義務が会社にはありますので,こちらの準備も必要になります。

 

 これに対し,教育や研修の目的が正当とは言えない,というよりも不当といえるかどうかは運用の問題です。教育研修制度をどう設けるかは会社側の人材育成ですから,大きな裁量を持っています。ここで問題となるのはそうした裁量の幅を超えている扱いがなされているかという話になります。例えば,職務規律を乱す行動や問題行動のある従業員を是正させるために研修を受けさせるのは正当な目的があるといえます。これに対し,確たる問題行動や職務規律を乱したとは言えないにもかかわらず,退職に追い込むその他別の目的で,必要性の乏しい研修を受けさせることは,その実施態様によっては裁量の範囲を超える可能性があります。この場合には,パワーハラスメントの一環として損害賠償請求などを受ける(というよりも裁判になると認められる)可能性があります。特に研修の内容が,業務と関係ないものである場合には当てはまりえます。

 啓発系の本を配り感想を出してもらうこともその内容にはよりますが,原則として問題はあり得ません。ただし,ここ数年の裁判例に出てきているような,個人の人格を否定する内容の本の感想を求める・特定の思想を押し付ける場合には,個人の思想信条を侵害するとして,損害賠償請求を受ける可能性があります。先ほどのパワーハラスメントになるかどうかはともかく,職場の環境を悪化させる・個人の人格を否定する行動であることがその理由となりえます。

 

 同様に,以前の裁判例である水を飲むことなく長時間長い距離を歩かせるような研修が組まれている・参加者の人格否定を行い,その後特定の考え方へ誘導していくなどの研修についても,損害賠償請求の原因となりかねません。請求を受けるだけでなく,実際の裁判例の中でも請求が認められたケースも存在します。こうした研修や教育訓練は,会社側がその必要性を認めても,特定の考え方(その会社や社会人としての厳しさを教えるため)を身につけてもらうために,その方の人格否定や身体に無理をかける必要性が一般には認めがたいという点に注意が必要です。その意味で,目的や経緯が濫用的とされる可能性もありますが,ここでは研修内容が個人の人格否定や生命身体の安全をに問題を抱える,安全配慮義務に違反した内容が含まれます。これが為に,無理に新人研修で長期間歩かせることで参加者に大きな身体上の問題が出たケースで大きな損害賠償が会社側に命じられたケースが存在します。

 研修を行う業者や行使の中には,マインド育成の名のもとに,参加者の自己否定を相当程度行ったうえで自己の考え方を教え込むというものも存在します。いわゆる参加費用が高額だからと言ってそれによって当然に問題がないとは言えないところがあります。

 

 このほか,無理に残業をさせて研修をすれば,残業代の問題や残業時間の上限規制の問題,過労による問題につながりかねません。

 

 経営理念の浸透や考え方・必要な技能を身に着けてもらうことは重要で非常に重要で意味のある事です。そのため,制度設計とともに目的をきちんとした形で運用をする必要があります。外部に委託する場合には,その研修がどんな形で行われるものかを内容とともにチェックしておくべきでしょう。経営判断とともにリスクにも目を向けておくのが一つの道となります。

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