法律のいろは

2021年2月6日 更新労働問題のご相談

定年後再雇用をされた嘱託職員が正社員との待遇差で違法と判断されるポイントとは?(最近の裁判例を踏まえて)

 働き方改革の流れの中で,非正規社員と正規社員との待遇差をなくす(同一労働同一賃金)という話しが出ていますが,中小企業でも令和34月から適用になります。改正前と改正後ではパートタイムの場合でも適用になるかどうかが異なるだけで,他は似た部分があります。

 定年後再雇用制度を設けている会社についても正社員から嘱託雇用(期限付きなどの点で非正規とされています)へと変更になり,その待遇差が違法かどうかが問題になるケースがあります。数年前に最高裁の判断では個別のケースで違法にはならないとされましたが,ごく最近別のケースで違法とされたものがあります。

 

○待遇差が違法になる基準とは?

    待遇面で問題になるのは,均等待遇と均衡待遇というもので特に後者が問題となります。前者は,実質がフルタイムで期限の定めのない従業員と同等の時間働き,①責任や仕事の範囲が同一②人事異動の範囲も同一,であるならば,同一の待遇をしないといけない(違反は違法かつ無効な待遇)というものです。

 これに対し,均衡待遇とは,パートタイム勤務・期間限定勤務の方とフルタイムかつ期間の限定ない方との待遇差がある場合に,①仕事の範囲や責任の内容の異同②人事異動の範囲が同一かどうか③その他の事情を考慮して,その待遇の趣旨からいって不合理な待遇を違法とするものです。

 

 均等待遇はまだわかりやすい面がありますが,均衡待遇については③その他の事情という雑多な考慮事情が存在することや不合理といえて初めて違法になる点ではっきりしない点があります。「同一労働同一賃金ガイドライン」で具体例や考慮要素がさだめられていますが,会社側は各待遇ごとに合理性があることを説明する義務を従業員に負いますので,一応の待遇の違いの根拠を説明できるようにする必要があります。この説明内容は仮にのちにトラブルになった際に合理性を根拠づける内容の一端としてきのうすることになるでしょう。

○最近問題になったケース

    長澤運輸事件と呼ばれる退職後再雇用の従業員について,再雇用後に(定年退職時に退職金は出る)嘱託職員になった際の給与格差などが不合理な待遇格差であったかどうかが問題になった最高裁の判断があります。こちらは広く報道されたこともあり,これで定年後再雇用=待遇差の問題はないという感想をお持ちの方もおられるかもしれません。しかし,このケースでは労使間の話し合いや運送業界の事情等個別考慮をしたうえでのケースでの判断であること・給与格差が赤字体質である業界で一定の配慮を行ったうえでの一定の範囲であったことを踏まえてのものであることから,別のケースでどうなるのかはわからないという問題があります。

 

 

 最近裁判例で問題となったケースは,自動車教習所の教習指導員の業務についていた方が定年退職後も,嘱託従業員として同じ業務についていた場合の話です。定年後嘱託採用をされた後は,基本給が下がる・賞与は原則としてなくなる(ただし,半年に一度一時金が支給される)・皆勤手当ての支給が異なるなどの待遇差があったというものです。

定年後再雇用の長澤運輸事件もこのケースでも,業務や責任の範囲は同じ(業務内容は同じ)で人事異動の範囲も同じです。定年後再雇用かどうかが大きな違いとなっています。

 定年後再雇用前後の違いについて,裁判所の判断では長期勤務と年功的な待遇を前提に人の刷新を図るなどの調整の仕組みである・定年までは長期勤務が予定されていたが,定年後の嘱託職員については長期勤務は想定されていないという違いがあるとしています。ここを「その他の事情」の一つとして考慮するとしています。長期間勤務が予定されていないことが基本給を決める上での一つの事情(低くなる点があること自体は否めない)という考えは可能です。

 業務内容が同じ・人事異動の範囲が同じとなると,その他の事情によって,待遇格差がその待遇ごとの趣旨によって不合理といえるかどうかがここでのポイントとなってきます。

 

 

 問題になった項目のうち,基本給は給与の中核的な事項で生活保障の側面があります。このケースでは,結論としては「その他の事情」によって待遇格差の不合理性を払しょくできないと判断しています。ここでポイントとなったのは定年退職後・嘱託として勤務した際の基本給の水準と退職前や若手従業員との給与水準比較・賃金統計上の同年齢の平均給与額との比較で大きく低い金額といえるかどうかという点です。

 退職前より大きく低くなるからトラブルになるわけですが,このケースでは60%を下回る・技能面で下回る若手よりも基本給が相当低い・同年代と比べても低いという要素・調整金などの支払いは認められず(判決上),従業員側から要望を受けても是正していないという点を考慮しての判断となっています。

 

 このほか,皆勤手当ては他の裁判例でもあるように皆勤勤務に対する報酬なので定年前後で違いを設ける理由はありません。家族手当については生活状況や扶養人数の考慮・定年した方は年金受給もしている点を考慮して合理性ありとしています。

 賞与(ボーナス)の格差については定年後再雇用の場合は原則なく・半年ごとの一時金のみであること,この一時金も技能の下回る若手従業員の水準も下回ること・基本給も低く給与合計も同世代の賃金統計の平均賃金を下回ることを大きく考慮しています。賞与は年功的な性格や今後の勤務への期待もあって意欲向上の側面である程度の違いがあってもいい面はあるものの,給与格差などの点から不合理性を払しょくできないと判断しています。

 

○最高裁の判断を含めての注意点は?

   待遇格差はこのケースで問題となった給与関係以外にも休日や研修・福利厚生など多くの側面に及びます。このケースでは基本給の性格を生活保障部分もあるとしたこと・退職金を受け取った年金を受給しているとしても,給与格差が技能水準の劣る若手や同年代の賃金統計上の平均賃金も下回っている等格差が大きいうえに低く設定する合理的な理由がみられないとされている部分が重要です。

 

 給与の制度設計をするにあたっては定年退職前後で期待する事項や嘱託従業員の位置づけという問題がありますけれども,給与には生活保障の側面が特に基本給では大きいという点は無視できません。

 注意点としては,基本給を定めるにあたって単に退職前の60%というこのケースで問題になった点をとらえるのではなく,特に若手従業員と比べての給与水準や生活という面では退職後の方の平均給与水準を確保できているのかは重要な要素です。調整給を設けるのであれば,何かしらの手当てとして制度設計をした方がいいでしょうし,その水準も先ほどの生活保障の点も考慮しておく必要があります。

 賞与は単に生活保障でもなく年功的な要素は既に退職金で考慮したという点や今後に期待する側面から,退職後再雇用で低くなることが正当化されやすい面はあります。ただし,全体としての支給が低くなることは考慮される可能性がありますので,バランス面での注意も必要です。

 このほか,従業員側との話し合いに基づいていたのかは考慮される点ですので,単に話を聞いたというだけでなく,何かしら給与や制度に反映させようとしたかどうかは一つのポイントになるように思われます。

 

 あくまでも,待遇差が不合理かどうかは個別のケースによる側面が大きいこと・一応の合理性を示す必要が雇い主にある面を踏まえて対応をする必要があるでしょう。

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