法律のいろは

2021年2月22日 更新労働問題のご相談

試用期間の延長は可能でしょうか?

○試用期間の意味とは?

 

   多くの会社では,入社後しばらくの期間(各社によりますが3か月程度が多いのではないのかという印象があります)を,その従業員の適性や能力を見極め,本採用をするのかどうかを決める制度をとっています。これが試用期間といわれるものです。職務がはっきりと決まっている場合にはその適正などの見極めがしやすい反面,日本の多くの会社では必ずしも特定はされておらず特に新卒採用の場合には顕著な点があります。言い換えると,特に新卒採用の場合には長期雇用を前提としてその研修期間という位置づけであるととらえられてきました。

 

 裁判例上,試用期間の性質は,新卒採用のケースですが,解約権を会社側が留保した雇用契約ととらえられてきました。新卒と中途採用(いわゆる第2新卒も新卒と同様と考えられます)では意味合いが異なる点はあるものの,同様の性格を有するものととらえられ,解約権の行使が可能になる範囲も縛られています。

 通常の解雇で要求される根拠や社会的な相当性までは要求されないとされていますが,具体的な勤務成績や態度が不良であることや適性を欠くこと・他の是正手段をとってきたことなどは要求されます。

○試用期間の延長は可能?

 試用期間を延長するケースはそこまでは多くないと思われますが,入社した方の態度や勤務成績などに問題があり注意をしても改善しない場合などにもう少し見極めたいという意向も出てくるところです。特に,改善して人手不足に対応したいという場合や全く逆ですが,今までの状況では解約権を行使して本採用を拒否しても相手に争われれば敗訴可能性が高いということで,様子を見たいという場合もあるかもしれません。

 

 試用期間の延長については,一般に消極的に考えられています。その理由は,試用期間というのは本採用(期間の定めのない雇用契約)の前の不安定な見定め期間であって,延長は従業員側にどうなるかわからないという長期の不安定を与えるためと考えられています。

 そのため,就業規則で延長期間とともに明確な定めが置かれていることや個別の従業員の合意がない場合には難しいとされています。合意を得る場合でも,単に合意を得るだけではなく,さらに時間をかけて見極めないと適性や能力面の判断ができないというだけの事情が必要になります。実際試用期間の延長の適否が争われた最近の裁判例(ここでは延長をすることの可否などを判断しています)でも,「やむを得ない事情」として先ほどの事情を要求しています。従業員側が本採用拒否のために応じないといけなるなる必要性や最近の合意にそうするだけの事情を要求する傾向に裁判所の判断があると思われる点からは,こうした事情が要求さえる可能性は頭に入れておく必要があります。

 就業規則の定めを置く場合でも,延長ができる場合やその期間をきちんと定めておくとともに,実際のケースにおいて定めてある場合に当たるのかの確認をきちんとしておく必要があります。事実の記録も残しておいた方がいいでしょう。これは,延長の可否が問題になるケースでは従業員側と事実関係を含めトラブルになる可能性を秘めているためです。就業規則で定めておくことで個別のケースごとの延長の可否について可否ができる場合がそもそもどんな場合なのかという問題はクリアできても,個別の事実関係に基づきそのケースではどうなるのかという問題は残ります。

○新卒と中途採用での違いは?

  中途採用の場合には業務内容や職務を特定して採用することがあるのに対し,新卒者では特に特定することなく採用するケースが多いように思われます。特定された業務内容や職務についてはその適正や能力面の問題がはっきりしやすい反面,特に新卒者では業務の特定もないため,継続して勤務できるだけの能力があるのかという判断要素が少ない(そのため,延長は考えにくい)要素があります。中途採用でも評価が難しい場合もありえますが,適性や能力面での評価がしやすいという場合が通常でしょうから,当然に延長しやすいわけではありません。

 

 いわゆる第2新卒と思われる方について試用期間を複数回延長した後で解雇がなされたケースで解雇の無効や退職勧奨行為が行きすぎかどうかとともに,試用期間の延長がなされたと評価できるのかが争われたケース(東京地裁令和21028日判決)があります。このケースでは,就業規則に試用期間の延長の話が定められておらず,従業員側が合意をした場合で,試用期間の延長ができるのかが判断されています。結論から言えば,否定されています。その理由は,時間をかけないと評価や調査ができないというだけのやむを得ない事情が必要だけれども,そうした事情がないためとされています。

 このケースでは試用期間の延長の際に退職勧奨行為が行荒れていたことや是正指導が言うほど行われていなかった点も考慮されています。仮に試用期間を延長しようというのであれば,実際に指導や見極めを行ったことが必要になりますし,そもそも複数回の延長にはかなり大きなハードルが必要になります。そもそも,本採用拒否を問題にするのであれば,本採用が難しい場合を定めておく・延長についてはその理由と期間を就業規則で定めておけば,ある程度トラブルを防げるように思われます。

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