法律のいろは

2021年2月15日 更新労働問題のご相談

未払い残業代の問題解決と源泉徴収の注意点

源泉徴収の仕組み(概略)

 多くの事業者にとって,給与に源泉徴収が必要(ただし,一部不必要となる場合があります)なのは意識しているところでしょう。ただ,その仕組みなどを詳しく理解していない方も多いのではないでしょうか?

 

 源泉徴収義務は所得税法に定められており,給与や退職金・一部の報酬支払(弁護士報酬も対象)について,一定の税率で計算した所得税分を差し引いて支払う(ただし,一部差し引けない性質のものもあります)とともに,その税金部分を国に納税するものです。面倒なのは,納税義務を負う方(給与の場合には従業員や役員)と源泉徴収をして国に税金を納める義務を負う方(先ほどの例では会社)が異なっていること・源泉徴収での税金額や税金を納める義務は,給与などの支払いの時点で確定するという話しです。

 厳密には源泉徴収義務の対象となる所得は複数あり,所得税における実際上の役割は大きいですが,ここで細かくその仕組みや内容内容までは触れません。給与所得についても年末調整など細かな仕組みがありますが,長くなるためここでは省略します。

 

 源泉徴収金額の誤りやその調整は別途できる点はありますが,源泉徴収義務を負う会社が納付(支払いの翌月10日が納付期限)をしないと,不納付加算税と呼ばれるペナルテイを税務署(国)の側から受ける可能性がある・このペナルテイ部分は源泉徴収義務を負う会社が必ず負担するという点です。源泉徴収義務を負うことになる給与などの「支払い」は裁判例上広くとらえられており,支払いをするべき金が消滅する行為すべてととらえられています。そのため,例えば,従業員や役員の債務を免除する行為も「支払い」として,免除した金額についての源泉徴収を行う必要が出てくる場合もありえます。この場合は天引きできませんし,免除する相手からお金を回収できるのかという問題点があります。ちなみに,債務の免除については課税が生じない場合もあります。支払いが著しく難である相手に免除する場合です。その場合に当たるのか(つまり,相手の資産や負債状況などを詳しく調査する)を事前に確認する点で大きな負担が生じます。

 

 ちなみに,税務署からやってくる「納税告知」はこれによって国から税額を明らかにされる場面ではありますが,既に税金滞納の回収手続きに入っています。そのため,この告知の場面ではペナルテイを受ける可能性が生じています。

未払い残業代の問題解決と源泉徴収義務

 未払い残業代も給与の性格があります(所得税法上の給与所得)から,源泉徴収義務が会社側にあります。その解決が労働審判や交渉・裁判の場であれ,話し合いによる場合には会社が仮に支払い義務を負うお金の性質が何であるのかをはっきりさせておく必要があります。その内容が未払い給与であれば,源泉徴収を意識した解決内容とその後の対応を行う必要があります。源泉徴収義務を会社は負いますから,天引きしておかないと一度源泉徴収額を立て替えて納付したうえで,後で元従業員に請求をする必要が出てきます。ただし,それでは面倒な話となりかねません。

 

 これに対し,会社と従業員側で争いになったのが慰謝料その他の損害賠償請求も存在し,解決金(一連の紛争解決のたえに会社が支払うお金という程度の意味)を支払うという解決の話し合いができた場合には,その旨を解決のための条項で明確にしておく必要があります。曖昧であった場合には,その性質をめぐって後でトラブルになる可能性があります。

 

 今までの話とは異なり,未払い残業代の請求裁判で請求が一定程度認められる判決が出た・その後支払いをしないままでいたところ強制執行(回収手続き)を受けたという場合には話が面倒になります。実際には延滞利率が高いこともあって支払うケースが多いと思われますが,それ以外に源泉徴収義務をめぐっても問題が出てきます。

 それは,強制執行であっても源泉徴収義務が出てくるという点です。強制執行の場合には判決で書かれた請求が認められた金額(ここに源泉徴収金額が記載されることはありません)を回収するという形となり,ここで源泉徴収金額の天引きという話しはありません。しかし,回収=支払いという理解がされますので,その翌月10日までに源泉徴収額を会社は収める必要があります。ここは最高裁でも確定された判断が出ていて,強制的な回収が除外される法律上の規定がないこと・強制的でも回収されれば支払額が少なくなることなどを理由に源泉徴収義務があると判断されています。

 もちろん,回収場面で相手方(おそらく元従業員)と話ができればいいのですが,こうした場面では話もうまくできないから強制執行に至ったというケースが多いと思われます。そのため,いったん源泉徴収額を納付しないと,相手方に請求できない不納付加算税(税額の10%)などが付け加わることになります。一度立て替えた後で請求の手続きをすることになります。

 

 このように,未払い残業代の解決を行う場面では源泉徴収義務が問題となることがあります。源泉徴収義務自体は先ほど述べたほかの場面でも問題となることがあり,実は注意が必要です。

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