法律のいろは

2021年1月9日 更新労働問題のご相談

外国人材の受け入れと労務トラブル(技能実習その2)

よくあるトラブルの種類とリスク要因

 外国人技能実習制度についてはこれまで人権侵害が多発している・実際の制度の趣旨を離れて低い給料と待遇での人の確保であるなど問題が言われてきました。平成29年に技能実習法が改正などの動きがあり,規制が厳しくなったうえで残ってはいますが,労働法令の違反や技能実習計画認定の取り消し(5年間受け入れ不能)になる場合などが発生しています。

 このコラムを書く時期に近い,平成31年・令和元年における外国人技能実習生の実習実施者(雇用主)に対する送検状況などの調査結果(厚生労働省が発表したもの)を見ても,主に製造業・農業・建設業をで,勤務時間に関する違反・残業代など給与の未払いがある・使う機会面など安全衛生面での問題(こちらは製造業が多い)という違反と送検の指摘がありました。

 

 安全衛生は設備面や教育面など法令で罰則付きで規制をさえているところであり,違反には送検(刑事処分を受ける可能性あり)の可能性があります。また,労災事故が起きた場合には会社として行う義務違反(安全配慮義務違反)として損害賠償請求を受ける可能性もあります。いわゆる労災隠しということがあるとやはりペナルテイの可能性があります。送検自体は悪質な違反や是正勧告で是正されない場合と限られはしますが,可能性自体は無視できない点があります。

 残業については,業種ごとの導入の違い(建設業など導入が後になっているものもあります)がありますが,これまで36協定の特別条項があれば特に罰則がなかった点が罰則付きになったということで,同じく送検の可能性があります。また,残業代の未払いについても言えますが,残業代の請求(悪質な場合には裁判手続きを使われると支払金額が大きく膨れる可能性があります)による支払い負担が生じる可能性があります。関連して賃金台帳を備えていない・内容が実態に合っていないということもペナルテイを受けるリスクがあります。最低賃金は上昇傾向にあり,下回ったままということになるとペナルテイ付きの法令違反になってしまう可能性もあります。

 

 これ以外にも,行動制限や厳しい対応をすることもパワーハラスメントとして行政からの指摘や賠償請求の原因となることがあります。これまで,勤務態度や問題発生の際に帰国を迫るなどによるトラブル(解雇を伴うもの)が出てきたといわれていますが,解雇の有効性(期間の定めのある雇用の場合はハードルがかなり大きくなります)の面で問題になる可能性があります。業務を抜けることや失踪することへの違約金やこの抜け道とな契約(親族その他・送り出し機関などとの間の契約)については技能実習法上も規制されていますし,違約金の契約は労働関係法令上も無効であるなどの点があります。

 

 現在は技能実習法の改正により,労働法令の大きな違反には実習計画の認定取り消しや欠格事由(違反が解消してから5年間)といった面でのペナルテイ(人材受け入れが難しくなりかねない)という問題もあります。実習生の失踪についても行政への届出が必要とされており,その人数が多い等の事情がある場合には法令違反が疑われる可能性もあります。

 

 面倒な話ばかりですが,法令改正により規制は厳しくなる傾向にあります。ペナルテイ(行政から企業名と違反の内容が公表されることもあります)や賠償請求の可能性をよく考えておく必要があります。残業代については,法令改正により外国人材についても令和2年4月からの分は2年から5年に変更されていますので注意が必要です。

 また,自社での勤務状況がどうであったのか(勤務時間や給与の支給状況など)は報告事項であって,事実に反した記載や労働法令違反を隠すための虚偽記載はペナルテイの対象ですので,この点も注意が必要でしょう。

トラブル対応の注意点

 違反事実の通報は労働基準監督署や入国庁・外国人技能実習機構などへのものが考えられます。通報自体は技能実習生やその支援者という方がすることが多いと思われますが,対応として実際の事実関係はどうなのかの確認が重要です。事実に反する話であれば争う必要がありますし,違反があるのであれば是正する・問題を大きくしない(例えば,他の実習先への転職を支援する,こちらは義務です)等の対応もあります。

 いわゆるコミュニテイユニオンにその実習生が駆け込むことで,団体交渉を求められることもありえます。もちろん,弁護士が代理人として交渉をしてくることもありえます。団体交渉による話し合いの場には応じる義務が雇用主にはありますので,その対応は必要です(言い分を飲まないといけないわけではありません)。ここでも法令違反に当たる事柄があるのか・それによるリスクの見通しや待遇改善による勤務が可能なのかなどを考えて対応をする必要が出てくるでしょう。他の職場への転職する場合でも,状況によっては後で残業代請求を受ける可能性もあります。その実習生がほかの在留資格に変更しない限りは最長で5年という技能実習制度の性質上そこまで長期間の残業代の請求の可能性が長く残るわけではありませんが,注意が必要です。

 よくあるトラブルのうち,残業代については特に農業については注意点があります。これは法令上,深夜残業の規制(割増賃金)を除き休憩や休日・残業の規制は適用されないとされている点です。

 

 ちなみに,いわゆる外部に通報をしたことでその実習生に対して不利益に取り扱う(ここには,例えば,のけ者にするなどのパワハラもも含まれます)ことは禁止されています。この違反にもペナルテイがあります。

 

 対応については,そもそも相手の指摘する事実関係があるかどうかで対応が変わります。仮に事実があるのであれば,金銭面での負担の可能性や制度上の欠格事由と今後の受け入れへの影響や企業名公表その他ペナルテイの可能性を考えたうえでの対応が重要になってくるでしょう。不払いに対しての支払い・衛生教育面での是正・待遇是正で一緒に働けるのか(難しい場合にはて4ん色支援を行う)等も選択肢としてはありえます。

 無理に隠ぺいをすることは,相手方の反撃もありうるところなので,その負担面を考えておいた方がいいように思われます。

 

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