法律のいろは

2020年4月25日 更新労働問題のご相談

外国人を雇用する際の注意点②(労働法令の遵守・雇用契約書の内容や明示,契約での注意点とは)

雇用契約書は必要?日本語表記だけでも大丈夫?

 外国籍の人材を採用するときの注意点としては,在留資格面での問題のほかに①日本人を採用する場合と同じく,日本の法律が適用されます②契約内容は明確にしておく必要がありますし,その方の母国での慣行や習慣に注意をする必要があること③母国語での表記もしておいたほうがいい,という点があります。後の話は他のコラムでも触れますが,在留資格である技能実習や特定技能では法令の規制が厳しくなり,特に③の点は必須と言えます。

 

 ①については他のコラムでも触れていますが,外国籍の方であっても最低賃金法や労働基準法など刑罰や契約内容を規制する法律の適用を受けます。そのため,給料からの天引きで預金をさせることはできませんし,給料が最低賃金を下回ることもできません。残業規制での上限を上回っている場合には,刑罰などのペナルティを受けるとともに残業代の請求を受ける可能性があります。技能実習や特定技能の外国人材の場合には受け入れができなくなるリスクも大きいです。

 

 ②は,法令上少なくとも勤務条件の通知書を提示する必要があり,在留資格を取得する場合(海外にいる方を採用する場合)作成の必要があります。日本国内にいる方を採用する場合であっても,在留資格の変更を必要とする場合必要になります。雇用契約書があれば,これが一番いい形になりますが,そこでは契約内容を明確にしておく必要があります。契約内容が明確でないとトラブルにつながる可能性がありますし,出身国の文化慣行によっては,契約内容に書かれていないことに従う必要はないと考える方もいるためです。就業規則を作っている会社では,就業規則で服務規律の話や契約内容の重要部分を記載していることも多いかと思われます。この場合には,就業規則の内容をきちんと示して説明をしておく必要があるでしょう。

 ちなみに,外国人技能実習制度を使う場合には,個別の実習生の方と雇用契約を締結することになりますが,事前に定めたうえで行政の認定を受けた技能実習計画の内容と整合しない内容の雇用契約にすることは禁止されています。こうした違反があると,技能実習計画の認定の取り消しを受けるとともに,今後5年間は技能実習生の受け入れができなくなるリスクがあります。このほか,行政から会社名公表などを受けることもありえます。

 就業規則は「周知」をさせておけばいいとされていますが(日本人を採用する場合と同じ),単に見ることができるようにしておくという法令上要求されている「周知」だけでなく,きちんと内容を説明しておくことが行き違いを避けることにつながります。

 ③の話とも重なりますが,在留資格の内容によっては特に高度な日本語能力を要求されることになりますが,その人材の方の母国語でも契約内容を記載しておくことが重要になってきます。厚生労働省の出している外国人指針にも,採用する外国籍の方に実際に理解ができるようにする必要がある旨記載されています。

 残業命令やその他の服務規律に従ってもらう際にも,国によっては解雇や残業を雇用主が命じられないところもありますので,そことは異なる点を明確にしておく必要があります。これは今述べた解雇や残業だけの話ではありません。

 

 また,渡航にかかった費用を天引きする場合には,別のコラムでも書いておりますように,本人の同意が必要なだけでなく,同意をしたと考えるのが通常だろうと考える事情が必要になります。母国語での説明がないということであれば,同意をしたであろうとは言いにくいです。きちんと,採用を行う前にきちんと書面で示して同意を得ておく必要があるでしょう。

 

 これらの話については,規制の厳格化のなされた技能実習生の採用や平成30年の入管法改正で設けられた在留資格「特定技能」においては,法令の規制が厳しくなっています。こうした法令の順守や説明ができたことの届出が要求されるとともに,法律順守がないとそもそもこうした在留資格での外国人材の受け入れ自体ができなくなる(現在受け入れている人材は別の企業に転職してもらう必要あり)という点で特徴があります。

 

雇用時間管理と注意点

 外国籍の方であっても,日本人と同様に雇用に関する規制が及びますので,雇用時間の管理(理屈上は1分ごとに行う必要があります)をきちんと行う必要があります。令和2年4月から中小企業であっても,残業時間の上限規制が原則として課せられるようになりますので,残業代の支払いはもちろん,こちらの方もきちんと対応をする必要が出てきます。技能実習生は技術移転を目的としてもらうものではありますが,1号技能実習の入国後講習よりも後は雇用契約を締結します。就労してもらう場合には,きちんと残業や残業代の規制を守っていく必要があります。

 今後残業代の時効期間が延びることがあり,この点も外国籍の方であってたとしても変わりませんので,注意は必要です。行政からの違法な残業に対する監督や指導なども同様です。

 

 外国籍の方の場合に注意を要する点は,在留資格によっては1か月の勤務時間の上限が決まっているという点です。こちらは残業云々という話ではありません。例えば,学生のアルバイトの場合,本来は就労を予定している在留資格ではありませんから,就労(ここでいう就労は簡単に言えば,日本での勤務や事業運営で収入を得る活動です)は禁止されています。包括的な資格外活動(業務内容を特定しないで稼働を許可されること)として許可を受けた場合に,1週間28時間(ここでの28時間の話は少し面倒で,1週間のどの曜日から数えても28時間以内である必要があります。簡単に言えば,偏っての勤務等ができないということです。です(長期休暇の場合に一日あたりの就労可能時間数が少し伸びます)。他の中長期の就労を行うことができる在留資格を持つ方の家族として,家族滞在の在留資格で日本で生活をする場合も同様です。また,いわゆる風営法の規制を受ける場所での業務等につけないという規制も存在します。

 こうした点に注意をしないとあっさりと在留資格自体に影響が出てしまいかねませんし,違反した状態で稼働をさせていると雇用主自体が不法就労助長罪という犯罪で立件される可能性もあります。そのため,人材確保というだけでなく,自社にとってもダメージを直接受ける可能性があります。もちろん,先ほどの在留資格に関する法令の規制以外に1日8時間以内の勤務という雇用に関する法律の規制も及びます。

 

 残業を命じるとき,外国籍の方にも日本人同様に応じる義務があります(ただし,36協定などの残業命令が法令の規制なくできるようにする必要が前提としてあります)。そのため,適法に残業ができる場合に,それに応じないという違反が続く場合には改善・それでもダメな場合には処分を考えることも出てくるでしょう。先ほど書きましたように,雇用契約書に分かるよう記載する・慣行での違いを説明するなどしてコミュニケーションを図っておくのが安全でしょう。くどいようですが,残業に応じるという話が合っても法令上の上限規制が及びます。また,負荷が多い場合の健康確保のための措置は及びます。在留資格(特定技能等)によっては,規制遵守が強く求められています。

業務委託契約にする場合の問題は?

 日本人との契約を締結する場合と変わりません。語学学校の講師などについて,業務委託契約を結ぶことで委託費用を払い,雇用関係の規制を受けないようにすることが考えられます。外国籍の方との契約であっても業務委託に該当するかどうかは,契約の名前や書面の体裁ではなく実態になります。

 考慮要素はたくさんあり,どう考えるかはケースにより異なりますが,時間管理や業務指示をされている・実際には時間勤務の対価と考えられる場合には雇用契約と評価されます。社会保険がない・確定申告をしていることも自営業・業務委託と考えるポイントの一つにはなりますが,決定的ではありません。

 

 雇用契約と評価される場合には,これまで述べました雇用契約に関する様々な規制(労災の面も含めて)が及ぶことになります。また,雇用契約に関する規制のほかに入管法の規制が及びます。在留資格によっては雇用契約しかできないものもある(例えば,特定技能では雇用契約のみ)ので,こうした点の規制も注意が必要でしょう。そもそも,その方の持っている在留資格(変更申請ができる状況なのかも含めて)でその業務を行うことができるかどうかの確認は極めて重要です。できない業務である場合には不法就労ということになるためです。

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