法律のいろは

2020年4月25日 更新労働問題のご相談

「同一労働同一賃金」での対応の注意点は?(労働者派遣は除く)

同一労働同一賃金とは?

 ここ数年いわゆる「非正規」雇用の方の待遇の改善を目指して法改正と給料など待遇を正社員と非正規で設けることについての裁判の判断が出ています。

 「同一労働同一賃金」とは,元々は男女で同じ仕事をする場合は同じ給料をという話から出てきたものですが,ここ最近の話では短時間の勤務であるパートの方や契約社員の方と正社員(パートではなく,契約社員でもない方)との待遇差を同じ仕事や責任等の事情のもとでは,不合理な待遇差を認めないという話で出てきています。

 言い換えると,待遇の性格に基づき,不合理とは言えない違いがあるのは構わないという話・正社員の間での待遇の違いにはかかわらないというものになります。労働者派遣の場合の待遇に関する問題もありますが,ここでは労働者派遣の場合以外の「同一労働同一賃金」の話を触れていきます。

 

 「同一労働同一賃金」に関する法律の規制は2020年4月から大企業で,2021年4月から中小企業で改正された内容が施行されます。現在,行政からガイドラインも出ているところではありますが,簡単にこれまでの裁判例の流れやガイドラインの考え方について触れた後で,改正された法律の内容について触れておきます。

 

 これまでは,法律上パートか,フルタイムか・雇用期間の定めがあるのかどうかで別々の法律で定められており,特に後者について定年後再雇用の場会(定年時に退職金の定めが設けられ待遇が下がる場合)・大きな会社を中心に雇用期間の定め等で待遇が異なる点で,様々な考慮要素を踏まえて不合理な待遇格差があるのかが問題となってきました。

 ちなみに,フルタイムの方と仕事内容や責任の範囲が変わらない方について,フルタイムの方との待遇で違いがある場合違法とされています。ここでの違法とは,フルタイムの方と同じ待遇をする必要があるという話になります。

 そこでは,基本給の差や各種手当の差等主に給与面を中心とした点の格差が不合理かどうかが問題になってきました。裁判となったものも複数ありますが,今後はパート・フルタイム,契約期間の定めがあるかないかで,仕事の内容の違いや責任の範囲の違い,人事異動でこうした責任や仕事の内容がどこまで異なるのか,等様々な要素を踏まえて不合理な待遇の格差が存在するかを,その待遇ごとに考えていくことになります。そこでは,待遇の性質が重要な要素を持ちます。

 ここでは,待遇に不合理な格差があった場合には,待遇格差を設けたことで生じた損害の賠償を請求できますが,雇用期間の定めのない方と同等の待遇を求めることはできないとされてきました。

 

 法律の改正後も,いわゆる正社員一般のうち,従事している業務内容などを踏まえて個別のケースごとに格差が問題となる従業員が定めってきます。裁判例はこれまで分かれていましたが,今後は格差是正を求める側が,比較対象となる従業員の範囲を設定できるとされています。そして,業務内容が同一かどうか・業務や責任の範囲が同一か・その他の事情を考慮して,その待遇の意味合いから見て,不合理といえるのかどうかがここでの問題です。

 ただし,事業主・会社は合理的であることを説明する義務を負うことになりますから,裁判になれば不合理と言えなければ大丈夫だとは考えずに,待遇ごとに合理的な違い(仮に違いを設ける場合)である根拠を準備しておく必要があります。また,行政からの指導やペナルティが加えられるものもあります。

 

 パートあるいは契約社員(雇用期間の定めあり)の方といわゆる正社員(フルタイムで雇用期間の定めない方)との間で,主に中核となる業務の内容が同じかどうか(責任の内容が同じかも問題となります)・人事異動でこうした業務や責任の範囲がどう変わりうるか・その他の事情を踏まえて考えていくという話になります。同一の業務や責任を負う範囲の方であれば,採用経緯や定年時に退職金をもらっている等のその他の事情を考慮する⇒ここでの違いや事情を踏まえたうえで,問題となる待遇の性格や違いの内容や違いをもたらす根拠から見て,著しく不合理なものと評価されるのかがここでの問題です。

 実際にどうなのかという話はこれまでの裁判例やガイドラインで載っています。ここで問題となる待遇は基本給や各種の手当(手当ごとに問題となります)・退職金の額といったものだけでなく,福利厚生制度の中身や研修制度の内容・取得することができる休暇の日数など待遇に関するもの一般に及んでいます。それぞれの待遇ごとにこうした問題が出てきます。

対応の注意点は?

 今後の対応を考えるうえで参考の一つになるのは,これまでの裁判例やこれを受けてのガイドラインです。ガイドラインは国から出されているものですが,基本給や昇給についての話・精勤手当や作業手当等これまで問題となった手当・ボーナスや休暇研修などの待遇をあげて,例えば,ボーナスであれば同じ貢献には同じ評価に基づく支給を,一定の地域に住んで仕事をする場合に支給する手当は同じ地域に住んでいれば全員に支給するものであると述べています。

 定年後再雇用については,定年後再雇用後の待遇を下げることが不合理な待遇差になる可能性があると述べています。裁判例の判断では定年退職の前後で同じ仕事や責任(異動の可能性も同じ)であるものについて,退職金の支給や代償処置などがあったことを踏まえて不合理ではないと判断した点を踏まえてと考えられますが,この部分はこうした差異や退職金の中身,その他の事情によりますので,制度設計をする際によく検討をしておく必要があります。

 

 対応の上で問題となるのは,合理性を十分説明できない待遇の違いについては違いをそのままにしておくことに問題があるというところです。

 言い換えると,①待遇に違いがある場合には,その根拠(合理性が説明できるようにする)②合理性の説明が難しい場合には,違いをなくす(なくす場合にどうなくすかの方向を考える),ことになります。

 ①は説明をしないことは,行政からの指導やペナルティの可能性もあります。次に,②については,待遇を上げるのかどうかは経営問題になります。言い換えると,法律上上げる方向で統一する義務はなく,下げる方向もありうるためです。待遇を下げる方で統一する場合,一つには離職リスクが生じること・法律的には,別のコラムでも触れています個別の契約合意であればその有効性が問題になる,就業規則の変更と同様に有効性が問題になることがあります。これは法律や裁判例によって,規制が加えられているためです。上記の点について,経営判断とともにリスク判断をして対応をしていくことになるでしょう。

 もちろん,待遇差をそのままにしておく対応もありえますが,①の点をクリアできるか重要な点になってくるでしょう。

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