近年は,高年齢者の雇用推進が求められていますが,60歳あるいは65歳で定年が定められている会社もあるかもしれません。定年退職とは言いますが,制度として定められていない限り,こうした事由による退職がおこることはありません。
既にこうした制度がある会社はともかく,新しくこうした制度を設ける場合は,通常就業規則に制度を設けることが多いと思われます。新しく作る場合や変更によって設ける場合もあるでしょう。就業規則の変更については,従業員の方に不利益な内容の変更に当たれば,一定の前提を満たさない限り,制度が意味を持たなくなります。
実際にこうした点が問題になったケースが比較的最近の裁判例であります。定年制で退職になったかどうかが問題になったケースであり,定年制が慣行上あるいは就業規則で設けられて入るものの,意味を持つのかが問題になりました。
ここでは,就業規則を変更して設けられた点が有効になるのかどうかを触れてみたいと思います。このケースでは,就業規則の中に定年制が設けられている点は争いがありませんので,他の前提を満たすことで,雇用契約の内容に定年制が含まれたといえるのかどうかがポイントとなりました。
会社の中には,就業規則を事務所に備えていない・備えていても,従業員の方が見ることができにくい場所においてあるケースはそこそこあるのではないでしょうか?法律上,就業規則で定めた事柄は,合理的な内容であって・周知をされていれば,雇用契約の内容になります。先ほどのケースでは,周知をされていたかどうかが問題になりました。
このケースでは,雇用契約を結ぶ際に,会社側から,就業規則などを守る旨の誓約書を従業員に書いてもらっていたという事情があり,このことをもって周知をさせたのかも問題となりました。結論としては,これだけでは就業規則が存在することは知らせたけれども,その内容を従業員側が知りたいと思えばいつでも見られる状況ではなかったと判断しています。つまり,周知されていないとして,定年制の効力を否定しています。
問題となった従業員が勤務している事業所部分に備えおきがなかった点が,周知性を否定する大きな要素となっています。
就業規則の内容は,定年制には限りませんが,備えおきに関して,おざなりにしていると思わぬ落とし穴が存在することもありますので,注意が必要です。備えおいているとしても,事業場が別になると問題が出てきますので,備えおき方にもチェックが必要でしょう。