勤務している従業員は,本来的に会社の指揮命令に従う必要がありますので,業務命令の拒否自体が通常は許されないことになります。こうした拒否は,通常労務義務の不履行として,解雇の基礎事由となる可能性すら出てきかねないところになります。
また,当然会社に命じられた業務を行うことで給料が発生しますので,命じられた業務をしないことは,給料の支払いを受けられないことに原則としてなります。ただし,法律上例外となる場合もあります。それは,会社の責めによる理由によって,業務を行えない場合に当たります。問題は,業務命令に従わないことが会社の責めによる理由と評価できる場合があるのかどうかです。
比較的最近の裁判例の中には,こうした場合を認めたものもあります。それは学校について,自宅待機命令を出して,本来的な業務につくことを学校として拒んでおきながら,それとは別の資格取得支援講座の担当を命じたというケースです。このケースでは,従業員の方が,新たに命じられた資格取得支援講座の担当を拒否したことについて,学校側の責めによる理由があるため,未払いの給料などを請求したため,こうした事柄があるのかどうかが主な争点となりました。
このケースでは特殊な事情があり,先だって従業員の方の解雇問題が存在し,学校側が敗訴したのち,自宅待機命令が出されていたという点と以前の業務に戻りたいという従業員側の希望がかなえられていなかった点です。また,問題となった従業員の方の健康問題もありました。
裁判所の判断では,こうした点などの事情を踏まえて,これまで行ってきた業務につくことは拒んだうえで,業務上のう要請が乏しいのに別の業務につかせようとした点を,会社側の責めによる理由と判断しています。ちなみに,問題となった従業員の方の体調への配慮を欠いた点も理由として挙げられています。
このように,基本的には業務につかない限り給料は発生しませんが,本来の業務とは別の業務を命じてその履行をしないという場合には,そのきっかけ等の事情によっては例外に当たる可能性がある点には注意が必要と思われます。