日常の業務の中などで,従業員の業務態度や仕事の仕方などで,叱る・注意するなどの事柄はままあるものと思われます。暴力行為はそれだけで当然に犯罪となりかねませんので,許容はされませんが,こうした行為が指導の範囲内では,という思いが出てくるかもしれません。
注意をしている側とされている側の認識に違いが出てくるかもしれませんし,小さな会社ではこれまで当然だったと思ってきたことが,外部の視点とずれていることもありえます。今回は,ここ数年でこうした叱るなどの行為によってうつ病にかかったという元従業員から,叱った上司や会社が損害賠償請求をされたという裁判例をもとに,こうした点を考えていきます。
まず,このケースでは,注意や叱ったことの内容や態様,仕事と関係ない嫌がらせ目的だったのかどうか・指導目的だったとして許容される範囲内かどうか等が争点になりました。実際のケースでは,争点がかなり多いので,関係ある点のみに絞り込んで触れていきます。
どんな内容の言葉をかけられたのかなどは言った言わないの話が出てくるところです。このケースでも誹謗中傷するような言動がなされたのかどうかは事実面でも争いになったようです。会社側は,内容を争いつつ指導目的で行ったものだから,損害賠償責任は生じないと争った模様です。この争点について,裁判所は元従業員が通っていた医療機関での診療録で医師が聞き取った内容に信用性を置いて判断しています。その理由としては,裁判が視野に入る前に仕事として聞き取った内容を記載したものだからというものです。
あくまでも,診療録は話をした元従業員の話を書き取ったものにすぎませんが,こうした点を考慮しての判断となっています。こうした診療録の記載の信用性が問題となるケースは多いと思われます。
その中で,言葉として「新入社員以下だ。任せられない」「なんでわからない。お前馬鹿か」という内容を事実認定して,過度に心理的負担を与える・名誉感情をいたずらに害するものであったとして,指導目的の限界を超えているという判断に至っています。ただし,その前提として,業務指導とは関係ない誹謗中傷ではなく,あくまでも業務指導の目的の中であるという判断があります。
実際のケースでは,うつ病との診断が元従業員に下された後の上司等対応について,適切性を大きく書いていて,損害賠償責任を負うのかどうかも問題となっています。また,パワハラについて内部通報を者に対して行った場合の会社側の対応が適切であったかも争点となっています(こちらの点は適切であった判断されています)。結論として,指導の限界を超えた注意などについて,上司と会社に損害賠償責任が認められています。会社は,使用者責任になります。
小さな会社では,社長と少数の役員と従業員というケースが多いと思われます。ついつい,注意や指導をしている際に,言葉が厳しくなることがあるかもしれません。また,人が少ないために,病気といっても休まれては困るという考えがあるかもしれません。そうはいっても,対応によっては会社側にリスクが出てきますので,研修などで注意をしておくことは必要でしょう。