
原則として給与からの天引きは違法です。
最近は建築現場・美容業・飲食業などで人手不足ということで,従業員の紹介による採用(リファラル採用)も増えてきましたし,支度金を渡しての採用もあります。このうち,リファラル採用の話は別のコラムで触れていますので,ここでは支度金の話を触れておきます。
支度金を給付として支給する場合もあれば,貸し付けとする場合もありえます。給付としても一定期間内に退職すると返金を求めたいという意向があるかもしれません。このことについては,退職の自由を制限してしまうという点で問題が出てきます。退職は自由が原則ですので,一種の違約金として返金を求める内容を約束しておくというのは無効になるリスクが高くなります。
それでは,貸し付けにしておけば返済を求めるだけということになります。貸し付けについては借用書はないけれども返済を求める(言い換えると口約束のみ)というケースもあるところです。お金の授受を含め証拠はなく,仮にお金を渡してもそれだけでは返済すべきお金かどうかは分かりません。こうしたトラブルを防ぐにも借用書(返済期限など内容をどうするかも問題になってきます)は必要です。内容面でも,あまりに借主に厳しい内容であった場合には,後で触れますが契約の有効性や天引きの有効性に影響が出てくる場合も考えられます。
貸し付けの方式である場合に,問題となる事柄として給与天引きを行っている場合に違法かどうか・一定期間勤務してくれれば返済免除にするという内容があった場合に有効かという問題があります。
このうち,このコラムのタイトルでもある前者については原則違法となります。これは法律上,給料は全額支払う義務があるとされているためで,簡単に例外を認めてくれないためです。そして,天引きは天引きをする分を支払わないことになりますから,全額を支払っていないという話になります。例外として
①従業員側との労使協定がある
②天引きの同意書がある
場合が挙げられます。①については単に協定書があるだけでなく,きちんと手続きを行っていることが必要です。②についてもとりあえず同意書を書いてもらうというだけでは有効に確実になるといえない点に注意が必要です。これは裁判例上,従業員側の自由意思で同意をしたものといえる事情が要求されるためで,会社側が本人に書かせたといえる場合も多いだろうということを踏まえて,有効性が問題になるケースではこうした事情を要求しています。
結局,天引きが問題になるのは,従業員側から天引き分の支払いを求めてくる場合ですので,こうした場合には自由意思で書いた言える事情の準備(裏返すと,従業員側で自由意思でなかったという話を具体的にしているのが前提になります)をしておく必要があります。厳しい借用書の中身だと自由意思とは言いにくくなることもありえます。
次に,返済免除についてですが,これは借用書の中身等の話になります。ここでも退職の自由を奪うような内容といえるかどうか(様々な事情を考慮して考えていくことになります)が問題になります。一定期間勤務してくれれば返済を免除するという内容が想定されますが,この期間の長さなども退職の自由を奪うかどうかを考えるうえでのポイントの一つにはなるでしょう。
違法な天引きとなった際の問題と対応は?
天引きが違法であれば,本来支払うべき給与を支払っていないために,支払いをするべき義務が出てきます。特に天引きの有効性が大きく問題になっている場合には延滞金の支払いも求められてくることも考えられますが,状況によっては無視できない金額になることもありえます。また,法律違反に対する行政などからのペナルテイの可能性もあります。
未払いがある場合(有効性ありとは言いにくい場合)には支払いをする必要が出てきます。もともと,問題がないように管理をしておくことでこうしたトラブルを防ぐことができるでしょう。