概要
介護業界だけでなく、人材不足が深刻な問題になってきています。そのため、人材獲得が激しくなり、自社の従業員が同業他社に引き抜かれてしまうということもありえます。
そういった人材の引き抜きに応じる従業員が出て来るのを抑止する意味合いもあって、自社の退職金規定に同業他社への転職の場合、退職金を減額できる・あるいは不支給にするといった規定を設けているケースがあります。
この場合、退職金規定に基づき、退職金を減額・不支給にすることができるでしょうか。
退職金の意味合いは?
退職金は必ずしも支給しないといけないわけではないですが、支給する場合は支給される従業員の範囲、退職金の決定方法、計算根拠、支払い方法、時期などを就業規則に定めることになります。
退職金は、普通は算定基礎賃金に勤めた年数別の支給率を掛けて計算しますので、賃金の後払いとしての意味合いがあるとされています。
ただ、他方で算定基礎賃金は退職時の基本給によることが多く、支給率は金属年数に応じて少しずつ増えていくため、その従業員の功労に報いるものとしての性格も持っているとされています。また、支給基準で自己都合退職と会社都合退職が区別されていたり、勤務成績が考慮されたりしていることもあります。
そのため、退職金支給基準の中で、従業員の功労を報いる部分をどこまで盛り込むかが、先の賃金の後払い的な性格と関連して問題になってくるのです。
同業他社への転職の場合に退職金を減額・不支給とする規定は有効でしょうか?
このように、退職金は勤務中の功労に報いるためのものとも考えられていますので、減額幅が大きいとその従業員の転職の事由を奪いかねないことになります。
相当な減額、不支給にしないと企業の運営に重大な支障が生じる、業績に悪影響が出るといった場合など、よほどの事情がないと大幅な減額や不支給は認められない可能性が高いです。減額の幅がどの程度なら許容されるかは判断が難しく、専門家によるアドバイスを受けた方がいいでしょう。
退職理由や従業員が同業他社の業務に携わることで会社が被った損害の程度などによりますが、減額幅が大きすぎると認められないことがあります。また、転職の時期についても、ある程度の期間内に限定することが望ましいといえます(通常はそれまでに退職金が支給されていると思われるため、この点はさほど問題にならないと思われます)。