
年俸制とその意味
店長など幹部従業員であっても手当を支払う月給制の会社が多いかと思われますが,業績を評価する形などで一年ごとの給与を決める年俸制を採用しているところがあるかもしれません。一部大企業その他職種などによっては,裁量労働制等別の制度によって,必ずしも勤務時間によらない働き方と給与の形態を作ることはできます。しかし,かならずこの制度の適用対象になるとは限りません。
あくまでも年棒制とは,月給ではなく一年単位で給与の総額を決め,それを各月ごとなどで支払う給与の形態に過ぎません。そのため,当然に業績と評価で決まる制度ではない点には注意が必要でしょう。
残業代込みの年棒制は可能?
結論から言えば,制度設計によっては可能です。この場合は,固定残業代という制度を使って,一定時間までの残業代を年棒制の給与の中に組み込むことになります。このことの意味する点は,年棒制であっても残業代の支払いは必要になるのが原則であるということです。それでは,どうやって残業代込みにする部分を作るかと言えば,他の固定残業代の場合と基本的には同じです。
残業代部分と基本給与部分を明確に区別すること・何時間分の残業代が含まれているのかを計算できるように明確にしておくことです。一時期,固定残業代は何時間分の残業代であるか明確にすることが必ず必要とする裁判例の傾向がありましたが,必ずしも最近はそうではないとするものもあります。とはいえ,トラブル防止には,予めどの機関までの間に生じた残業時間がどこまでのものが含まれるのかをきちんと明示しておくことが必要なってきます。ここでいう残業には,基本的には一日8時間・一週間時間を超える部分・休日勤務・深夜勤務全て当てはまります。変形労働時間制を採用した場合等一部考え方が異なる場合もありえますが,原則の形は今述べた通りです。他のコラムでも触れましたが,あまりに長い残業を前提とする固定残業代制度は無効になるリスクがあります。平成31年4月から大企業からではありますが,残業代の上限規制の制度が始まっています。中小企業でも一年遅れの施行ですから,こうした点も踏まえての制度設計が必要となります。
ただし,この制度を使っても想定を超えた残業時間については残業代の支払いが必要になります。
年棒制を支払っておけば,残業代の支払いは不要?
結論から言えば,基本的にはそういうことはありません。その店長が実質は業務委託であった・先ほど触れました裁量労働等の適用を受ける場合・店長が「管理監督者」と評価される場合は話は別です。業務委託であったかどうかは単に契約の名前で問題になるわけではなく,実際がどうであったかによります。いわゆるサロンでの「面貸し」等で実際上も大きな裁量と独立採算であった場合とは異なり,飲食店等でそうした事柄がなければ業務委託とは言いにくくなります。
「管理監督者」とは名ばかり店長で知られるようになった,経営に関わり時間の裁量が大きな方には労働時間に関する規制をなくそうという制度です。最近は,店長を務める店舗で経営者の「分身」的な立場にあたるといえるかどうかを問題にする裁判例が出ています。ここでいう「分身」とは,その店舗でのシフトだけでなく,人事評価やアルバイトの採用など人の管理を自由にできるのか,勤務時間を自由に決められるのか等といった点がポイントとなるでしょう。
最近の裁判例でも出ていますように,年棒制を採用したからといって,その金額が高額だからといって,当然に残業代の新井義務が消えるわけではない点には注意が必要でしょう。こうした事を想定した制度設計と運用が重要になってきます。