はじめに
特に訪問介護事業所では,普段の業務として利用者の介助や入浴等といった,従業員にとって身体的な負担のある動きが必要になる作業が含まれています。
こういった業務は,特に妊娠した従業員にとっては身体の動きによっては負担になることから,配置の変更等,仕事の軽減の申し出がなされるようになると思います。
このように,妊娠した従業員から,仕事の軽減の申し出がなされたとき,介護事業者としてはどのような対応を行う必要があるでしょうか。
法律での定めはどうなっているでしょうか?
先ず、労働基準法では,使用者は妊娠中の女性が請求した場合には,他の軽易な業務に転換させなければならない,とされています(労働基準法65条3項)。
「軽易な業務への転換」ですから,具体的には重量物を扱う業務の場合はデスクワークに,外勤であれば内勤や在宅勤務に変更する,ということが考えられます。
また,男女雇用機会均等法12条でも,「母性健康管理の措置」として,妊娠した従業員が母子保健法の規定による保健指導・健康診査に必要な時間を確保しないといけない,これらの指導事項を守れるよう、勤務時間の変更,勤務の軽減その他必要な措置を講じる必要があるとされています。
ただ,これらの措置を講じるにあたっては、まずは従業員から妊娠した旨の申し出があることが必要になってきますので、従業員側から申し出がしやすい・申し出出来ることを周知する必要があります。
具体的にはどういった措置を取ればいいのでしょうか?
雇用主が講じなければならないものとしては,少し長いですが,「妊娠中及び出産後の女性労働者が保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることが出来るようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」(平成9年労働者告示第105号)で,
・妊娠中の通勤緩和
・妊娠中の休憩に関する措置
・妊娠中または出産後の症状等に対応する措置
について定められています。
妊娠中の通勤緩和については,朝夕のラッシュを避けての30~60分程度の時差出勤、フレックスタイム制度の活用、混雑の少ない通勤手段や通勤経路への変更などが考えられます。
妊娠中の休憩に関する措置については,妊娠中の体調に個人差があるので、法律では特に延長時間や休憩回数の具体的な数値は示されていません。
妊娠中は体調が不安定になりがちですので,出来る限り人目を気にせず横になったり、セキュリティ上も安心な休憩室などを設けて、妊娠した従業員が体調に合わせていつでも自由に利用できるようにしておくことが大切です。
妊娠中または出産後の症状等に対応する措置については,訪問介護事業所のように,負担の大きい作業に従事する妊娠中や出産後1年を経過していない女性労働者がいる場合、デスクワークや負荷の軽減された作業への転換を行うことを指します。具体的に負担の大きい作業としては,重量物を取り扱う作業・外勤など連続歩行を伴う業務・常時全身運動を伴う業務,
頻繁に階段の昇降を伴う業務,腹部を圧迫するなど不自然な姿勢を強制する業務をいいます。
どういった業務が負担になるかは従業員が妊娠を申し出たあと,早いうちに面談などでその従業員から聞き取り,確認することが必要でしょう。
また,一旦確認して軽易な業務に変更したあとも,妊娠した女性従業員が無理をしていないか常に確認する仕組みづくりが必要です。
妊娠した女性従業員のキャリアに影響しないよう配慮しつつ,情報を共有しておき、上司や同僚が業務を替われる仕組みづくり,周りの従業員に業務の偏りが出ないよう配慮することも必要になっています。
いずれにせよ,妊娠中の従業員の体調には個人差がある上,職務・業務の内容がそれぞれ異なりますので、その人に応じた対応が必要です。妊娠中だからという理由で一方的に業務を制限すると,かえってマタハラといわれる可能性がありますので,注意する必要があります。