
はじめに
特に冬のシーズンは寒さや乾燥が激しくなってくると次第にインフルエンザの流行期になってきます。介護施設では、免疫力の弱くなっている高齢の方に接することになるため、施設の従業員,利用者の方ともインフルエンザの予防接種をしていることが多いのではないかと思います。
ただ、それでも従業員や利用者の方がインフルエンザに感染してしまうことはありえます。また、それ以外の伝染性の疾患にかかることもあるでしょう。
そういった場合、インフルエンザに感染した従業員を休ませなかった場合、あるいは従業員をインフルエンザに感染した利用者宅に訪問介護に行かせた場合にどういった問題が施設側に発生するでしょうか。
インフルエンザなどに感染した従業員を休ませなかった場合の問題点は?
まず、インフルエンザに感染した授業員が、感染を理由に欠勤を求めてきたにもかかわらず、人手が足りないからと出勤させた場合はどんな問題が出て来るでしょうか。
施設側には、労働者である従業員が生命、身体などの安全を確保しながら働けるよう、必要な配慮をしなければならない、と労働契約法で定められています。これを、安産配慮義務といいます。
したがって、施設としては、雇っている従業員がインフルエンザなどに感染した場合、その従業員の体調を見て休ませるなど必要な措置を取る必要があります。
また、労働安全衛生法上も、伝染病その他の病気で厚生労働省令で定める病気にかかった者については、就業を禁止しなければならないと決められています。
この点、季節性のインフルエンザの場合には、労働安全衛生施行規則で就業禁止にしなければならない病気の中には入っていません(ちなみに、就業制限しなければならない病気としては、結核や鳥インフルエンザ、新型インフルエンザがあたります)。
そのため、季節性のインフルエンザに従業員が感染しても、ただちに就業を禁止しなければいけない訳ではありませんが、従業員自身が体調不良を訴えて欠勤を申し出ているにも関わらず、人手不足を理由に無理に就業させ、症状が悪化した場合には、出勤させる相当な理由がなく,施設側が責任を問われる可能性が出てきます。
また、季節性のインフルエンザの場合、感染のリスクもありますので、無理に出勤させて他の従業員に感染すると、それによって症状が出た従業員への対応もしなければならなくなり、下手をするとますます人手が足りないリスクも出て来かねません。
ですから、季節性インフルエンザであっても、従業員から欠勤の申し出があれば、速やかに休んでもらい、なるべく早く復帰してもらえるようにするとともに、他の従業員へ感染が拡大しないようにするのが一番良いでしょう。
利用者がインフルエンザに罹っているのを把握しながら従業員を訪問介護に行かせた場合の問題点は?
これに対して、介護サービスの利用者側が季節性のインフルエンザに感染しているのを施設側が知りながら、訪問介護に従業員を行かせて季節性のインフルエンザに罹ってしまった場合には、どういった問題になるでしょうか。
この場合にも、施設側は従業員に対して安全配慮義務を負っているため、こうした点を守っていないということで後で損害賠償の問題が生じかねない等トラブルが生じる可能性があります。また,訪問先のお客様に対しても,感染による問題(同じように損害賠償の問題もありえます)が生じかねません。そのため,たとえインフルエンザの予防接種を従業員が受けていても、感染する可能性がある以上、行かせないようにするのが適切でしょう。
それでも従業員を行かせて、季節性インフルエンザに感染した場合、「業務上の疾病」にがいつするため、労災保険の支払い対象になってきます。
この場合にもさらにその従業員から他の従業員への感染の可能性も出て来かねないことから、そういったリスクも考えて対応すべきでしょう。