法律のいろは

2022年1月3日 更新解雇

退職勧奨やパワハラ等の事実関係や評価の判断はどのようになされるのでしょうか?最近の裁判例を踏まえて

はじめに

    従業員の退職時に,パワハラや退職勧奨・残業代などの未払給料の請求が問題となるケースは多いように思われます。退職勧奨の部分に解雇の有効性も加われば,一通りの問題がそろった感がありますが,まさしく比較的最近判断が出た裁判例でもそうしたケースが問題となりました。

    今回はその裁判例(東京地裁判決令和3年2月15日判決)に触れながら,事実関係や評価に争いが出た場合に問題となるポイントを述べていきます。

事実関係や評価が争いになる場合の注意点

    解雇がなされる場合には,前提となる事実関係,特に解雇の原因となる能力不足や言動等について会社と従業員側で言い分が異なる場合があります。

    退職勧奨やパワハラについても重なるケースもありますが,会社側の誰が・どのようなことを・どのような態度で・どの程度の回数,頻度, 時間の長さ,言ったのか等が争いになるケースがあります。

 この場合には,言い分が不自然か,具体的なものか,つじつまが合っているのか等の話や,争いがない部分と整合するかという話もありますが,一番は裏付けとなる証拠があるかどうかです。この証拠についても信用できるといいやすいものかどうか・その証拠から言えることでどこまで裏付けができるのかがポイントになります。

 

 パワハラや退職勧奨はその際の言動を録音や録画していない限りは,言った言わないの話になる可能性があります。前後のやり取りの記録や目撃者の話も証拠になりますが,全体の録音や録画に比べれば証拠としての意味合いが落ちる可能性があります。証言をする方自身の立場によって虚偽の供述をする動機ありと判断されますし,その場合には信用性は割り引いて考えられます。

 また,録音や録画が前後のやり取りを外されたものである場合には,恣意的な選択がされている可能性・言動の意味(何に対する回答や発言かがよくわからない)が不明ということで証拠としての価値(意味合い)が下がる可能性があります。編集によって実際のやり取りと異なるものとなっている場合には,証拠としての意味はなくなります。その意味で,録音や録画だから全てが決まるというわけでもありません。

 

 事実関係の話以外にその評価が問題になることもあります。例えば,「あなたは他の勤務先の方がいいと思います。居場所はうちではないと思いますし。」という話は退職勧奨の際に使われる可能性のある言葉です。決定権を持つ小さい会社の社長が拒否の回答に何度もこうした発言をする場合には,退職させるという強い意志と予定を感じさせるもので,相当性を超えた退職勧奨の根拠となりえます。

 これに対し,一回発言したにすぎない場合には,強い勧奨とは言えません。評価をどうとらえるかは言動の内容の他に,前後の文脈や言動を述べた方の立場などの事実関係によっても変わってきます。

 そのため,言動の内容以外の要素も考慮して評価を考えていく必要があります。とかく,有利なように考えたいという気持ちが出てくるところですが,きちんと考えておく必要があります。また,なんでも従業員側の有利に裁判所の手続きでなるというものでもなく,社会的な相当性を一般的に考えても逸脱しているといえる必要がある(ハードルが相当程度ある)点も考えておく必要があります。

 

裁判例で問題となった話やポイントは?

 東京地裁令和3年2月15日判決では事実関係や評価が多く,会社側と従業員の側で争いになったケースです。以下では,判決の認定に沿って記載します。

 このケースでは,従業員にさぼりや暴力行為等があるから解雇したというもので,解雇の有効性・残業代の請求の基礎となる残業時間の存在・退職勧奨などについてパワハラとして慰謝料請求がなされ,慰謝料が生じる行為なのかが争いになったものです。他にも争点はありますが,今回は省略します。

 解雇の基礎となる事実関係(さぼりや暴力行為等)の内容・関連して残業時間の存在・退職勧奨等の際のやり取りに関する事実関係とパワハラに該当するのかどうかの評価(賠償請求が認められる原因があるのかどうか)等の事実関係と評価が争いになっています。

 

 結論から言えば,次の通りの判断です。解雇の基礎となる事実関係については従業員側・会社側の言う事実関係も認めず,争いのない何かしら従業員と上司がもめて双方ケガをしたという範囲で事実を認め解雇の原因はないと結論付けています。これは,解雇の基礎となる事実関係(解雇の基礎付けとなる事実,就業規則で定める解雇事由に該当するもの)は解雇を有効とする側で立証する必要があり,ここで立証できないリスクは会社側が負うことになります。

 次に,残業時間の存在は認められませんでした。このケースでは先ほど述べたさぼりの存在はある程度争いのない部分があります(ただし,勤務時間が短かったという範囲であり,会社が許容していたかどうかというさぼりにあたる部分自体には争いあります)。残業時間の存在は従業員側が立証する必要があり,争いのない事実関係の存在や,残業の証拠が弱かったことから,その存在が否定されています。ここは事実関係の争いになります。

 最後に退職勧奨の際の会社側の言動(上司の言動)がパワハラにあたるかどうかですが,当たらないという判断になります。このケースでは上司による人格否定発言などの存在など事実関係面での争いと争いのない事実関係(「売り上げがなければ退職してもらう」等)が社会的に見て逸脱した言動かという評価面も争いになっています。こちらについて,従業員側が立証責任を負うパワハラと基礎となる人格否定発言などの事実関係が立証されていない・評価面では逸脱していないというのがその根拠です。

 

   これらのうち,事実関係については証拠の意味合いや位置づけ,その信用性について細かく検討されています。例えば,証言については虚偽供述の動機の有無や録音の内容の精査・争いのない事実関係との整合性等を検討しています。したがって,言い分がどこまで認められるかの見通しを考える際には証拠の検討が重要になりますし,その際には事実認定の際にどのように評価されるのかという点がポイントになります。本件では上司側の発言以外に暴行の事実やその他事実関係の存在になっていますが,同様のことが当てはまります。

    次に評価については「売り上げがなければ退職してもらう」というのは,上司にあたる人物が言ったというものであることを考えると,退職してもらうことが確定し強く働きかけるものとも考えられます。ただ,発言している主に決定権がなく,前後の流れから見て決定しているというわけでもない場合などはこの発言から,当然に強い退職勧奨ということはできません。裁判所の判断はこうした点を考慮したものと考えられますが,もちろん,先ほど述べた決定してのものではないかという考えも出てくるでしょう。
 
 いずれにしても,発言の主の立場や出てきた文脈を無視することはできないので,この考慮は重要です。発言を切りとるだけでは意味がないというのも評価を考える際にはポイントになります。先ほどの録音などを一部だけ切り出すというのが事実関係を考える上でポイントになるのと同様に,評価を考える上でもポイントになります。

 

   このように,証拠の内容や位置づけ・信用性,評価がどうなる見通しかといった検討は,全体の見通しを考える上では極めて重要になります。

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