法律のいろは

2021年8月22日 更新労働問題のご相談

退職にあたって割増しで渡したお金は競業禁止の合意の効力に影響を及ぼすのでしょうか?

○競業禁止や制限の有効性は厳しめに考えられる傾向?

 

競業禁止や制限は勤務中は就業規則に設けていればその有効性は広く認められますが,退職後については別途合意をしておく必要があります。しかも,その有効性はこれまでの裁判例を見ると厳しめに考えられる傾向にあるように思われます。

 これは,退職前は自社の業務に専念するため・利益相反行為は許されないと考えられる一方,退職後はどの仕事を選ぶかは自由ということに対する制限はそれだけの必要性などがないと許されないと考えられているためです。最近では副業など兼業をする方が増えていますが,あくまでも本業の妨害や利益相反とならない範囲での話ですから,退職前は競業禁止自体は広く有効になります。

 

 ちなみに,裁判例の中では,ここ数年のものの中で割と緩く競業禁止の合意の有効性を認め,当初家業を継ぐための退職という話を同業他社の面接を受け転職したということについて割増退職金の返還を認めたケースがあります。2年間の地域を限定しない競業禁止を平社員に課したというものです。このケースをもとに広く競業禁止は認められるという根拠にしたいところではありますが,特殊な事情もあるものです。

 それは,2年分の給与相当額の割増退職金の支給や全国展開の会社であったこと・当初の退職理由とは異なった(つまり競業に転職する)ことを知りながら割増金を受けたという事情です。このうち,競業禁止に該当するということを知りながら退職金を受け取ったという話が,競業制限の合意の有効性につながるのかは疑問が残りますが,やや特殊なものであることは頭に置いておいた方がいいと思われます。

 ここで疑問が残るというのは,競業制限を知りつつ受け取ったという話は合意が有効施ある場合に,その違反の程度が大きいのかという話ですから,合意の考慮を考える上での話とは異なるのではないかという話になります。

 

○割増のお金の意味とは?

多くの裁判例では,競業禁止あるいは制限の合意の効力を考える上では,制限の程度や制限を設けるだけの必要性があるのかなどを考えて,総合考慮で考える傾向にあるようです。その際の考慮要素には,①退職する従業員が営業秘密や顧客情報に深くかかわる方なのか②会社の事業内容や事業地域から見て,制限の広さや長さの程度③営業秘密や顧客情報などを特に守る必要性や制限を設ける目的④代償となるお金など,が考慮要素になります。

 

 ①は役員や研究開発,あるいは広い人脈やり事業に関する情報を持っている方については制限の必要性があります。②は広い地域・長い期間であればあるほど制限の程度が大きくなります。事業領域や地域と比べて大きい・広いものであれば制限は必要ないと考えられる可能性が高くなります。③は一般的に制限を設ける必要性になります。④は制限を設けるだけの代償を与えていれば,制限を設けることでの不利益がなくなります。

 ここでいう割増のお金とは④の話になります。金額が多ければそれだけ制限による不利益はなくなることになります。それでは,制限を設ける期間と代償となるお金がどういう場合に見合うといえるのでしょうか?

 

 ここが問題となる点です。退職の際の割増で支給するお金には様々な性格が考えられます。そこには在職中の支給していないお金(残業代を含む)・その他トラブルの解決金としてのお金・早期に退職してもらう(退職の有効性を問題にしないための)お金というものも考えられます。このほかに,競業制限の代償としてのお金も考えられます。

 よく言われるように,お金には色がないという要素がありますので,単に退職にあたり割増しでお金を支給する場合に,そのお金がどの要素を持ったお金なのかはっきりしていなければトラブルになる可能性があります。

 

 割増しとなったお金が競業制限の期間や程度に見合うお金というのであれば,その旨がはっきりしていないといけません。同じ期間の制限でも地域が広ければ,制限の程度は大きくなるのではないかという点もありますので,そこの考慮も必要になります。

 特に限定なく割増金を払ったから全てを解決したといえるのかどうかは,退職時のトラブル予備軍の要素によっては問題になりかねません。先ほど取り上げた裁判例(厳密には京都地方裁判所平成29529日判決)では,割増金の中身を検討することなく割増金の給与該当機関と制限期間が同じ2年程度だから見合っているという点を,合意の有効性を根拠づける要素としています。しかし,そう簡単にそうは言えない可能性があるという点には留意が必要なように思われます。

○競業禁止や制限を設ける際の注意点

 

制限を設ける際に留意をする点は,まずは退職時の合意がないと基本的には競業制限はできないという話です。次に,一律に制限というのではなく,制限の範囲(広さや期間)がどの程度なのか・制限をする目的と見合っているのか・合意をしてもらう相手の立場や地位などと見合っているのかという話になります。

 

 最後に制限を設けるには代償となるお金を支払った方が有効性は満たしますが,そこまでするのかという話を決める必要があります。支払わないということは有効性が満たされない可能性が高くなることを前提にすることになりますし,仮に支払うならばいくらなのか・制限内容と見合うのかを検討しないと無駄な支出となりかねません。

 その際には,先ほども触れた他の支出の可能性もあるので,認識違いが生じないように,何のためのお金かは明示しておいた方がいいでしょう。

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