相手方の信用状態の調査は重要
今回は内容証明郵便の意味や念書を書いてもらうことの意味などを含めて再度取り上げていきます。
通常は相手方と取引を開始した時や貸付時に相手方の支払い能力の調査はすることになります。継続的な取引をする場合には,その間で支払い能力が変化することは十分にありえます。
そのため,支払いが滞る・支払い時期の延期を求められた場合には,こうした点の調査をする必要性が出て来ます。信用状況の確認には様々なものがありますが,調査を調査会社(代表的なものとして帝国データバンクの調査サービスを活用する)に任せるというものもありうるでしょう。もちろん,決算書(開示してもらえるのかという問題はあります)・会社及び不動産の登記簿(不動産は名義と担保の設定状況を登記簿で確認できます)を確認するなど,ご自身でもできる調査はあります。
ちなみに,内容証明郵便を送付する・弁護士名で送付すること自体は相手に対して,強い請求意思を示す・時効が来るのをけん制する意味合いはあります。しかし,売掛金のもととなる契約があったのか・生じたのかが問題になるケースと異なり,支払い能力が悪化している状況ではあまり意味はないと思われます。同じことは念書を書いてもらうことについても言えます。
念書を書いてもらう際には,そこで支払金額と支払時期の合意をしていることになりますが,その後支払いが難しい状況が生じた場合にはこれだけでは対応できません。もちろん,念書を書いてもらう時点で既に支払いができる状況でなかった場合には相手方に詐欺罪が成立する可能性はあります。これを防ぐのであれば,何かしら確実な担保を取っておく必要があります。その際には,その担保について問題ないのかの確認は必須となります。
こうした点が曖昧であると,結局のところ支払いがなされないままに時間が過ぎる・裁判を起こしたとしても破産の申し立てに至った等の通知を受けることがありえます。こうした段階で財産を押さえる(仮差押えという裁判所の手続きを踏む必要があります。勝手に例えば在庫を持ち出すのは仮に担保があったとしても違法です)必要がありますが,差押えをしようとする方が多く回収が実際には難しくなる可能性も高まります。
担保を取る方法にはどういったものがあるでしょうか?
まず思いつくところとして,誰かに保証人になってもらう・土地などに抵当権を設定するということが思いつきます。ただし,保証人はその方の支払い能力,更には他の負債がどうであるのかが重要になってきます。その上,一定期間の取引について一定額の範囲で保証人になってもらう場合には,規制があります(法律改正によりさらに保証人の保護がなされる予定です)。結局この方の支払い能力その他の要素に左右されます。
担保には先ほど触れたもの以外に,売却した商品に所有権留保をつけておく(代金を支払うまで自社の所有物とする)・貸し付けや売掛を有する会社(個人)が他の方に持っている売掛金などの譲渡を受ける(代物弁済と言って,担保ではなく実際の支払いに充てる形もありますが,この場合にはいくらの支払いに充てたのかはっきりさせる必要があります)方法もあります。売掛などを担保目的で譲り受ける場合には,将来発生するものを含めて譲り受けることは可能です。ただし,この場合にはどの範囲のものの譲渡を受けるのかを特定できるように明確に書類で準備をしておく必要があります。また,所有権留保をつける場合には,相手先が勝手に処分できないように同意書をとっておく・その物件が所有権留保の対象である目印をつけておくことが重要になります。
こうした担保を取っておくことでいざという場合には引き上げて現金化などを図ることになります。ただし,相手先の状況があまりに悪化した段階でこうした担保を設定することは,場合によってはその効力を後で否定されるリスクがある(簡単に言うと,破産可能性のある状態での抜け駆けへの規制にひっかかるという話です。法律上は一定の前提のもと抜け駆けへの規制があって,抜け駆け行為の効力を否定するとされています) 。
回収手段は?
先ほど触れた担保を使っての回収や譲渡を受けた売り掛けなどを回収するという方法以外に,自分が相手先に負っている負債と相殺をしてもらうという方法があります。ここで相殺をしてもらう負債は他の方から譲り受けて行う方法もありますが,裁判例などで規制が存在しますので注意が必要です。
このほか,相手先の状況が悪くなっているのであれば仮差押えという,裁判所への申立てが必要であるものの,緊急に財産を押さえることができる手続きを行う必要があります。もちろん,抑えるだけの財産がある必要がありますが,悠長に話を進めているよりは意味は大きくなるかと思われます。この場合はその後普通に裁判を起こして回収をすることが多くなるかと思われます。
こうした話の細かな点はここでは省略をしますが,単に支払いの念書をとるだけではなく調査や担保を設定してもらう・回収に入るなどをうまく組み合わせることで,回収できないリスク(自社の倒産リスク)を下げることにつながっていくでしょう。困った際には,専門家にも相談して対応を考える(可能であれば問題発生前の段階から相談自体はしたほうがいいでしょう。遅いと単に手遅れになるため)ことが重要になると考えられます。