法律のいろは

2022年9月27日 更新債権回収のご相談

取引先の経営危機時期に販売した商品を引き上げることのリスクと注意点

○代金回収の優先権の存在とリスク

 現在担保に関する法規制の改正に向けた議論がされていますが,現在の法規制の下で取引先に販売した商品を支払いがない状況で引き上げることには何かしら問題があるのでしょうか?

 

 

 土地建物の場合には,支払いまで登記を移転しない等の備えがあります。商品関係も譲渡担保という方法を使うことで対応が可能な部分がありますが,これ以外に土地建物以外の動産と呼ばれるものには法律上当然に認められている担保県が存在します。

 ここでいう担保権とは,取引先の支払いがない場合に,担保に入っている物品や権利を売却あるいは売掛金を回収することで回収を図るものです。売掛金などは債権譲渡担保というものである程度公に示す制度が存在します。ただし,取引先の経営危機時期での担保設定や経営危機時期に権利移転をするような合意をすることは後でその合意の効力が否定されることがあります。破産などの倒産手続き数年前に改正された同様の機能を持つ詐害行為取り消し権・否認権と呼ばれる制度です。簡単に言えば,せっかくの合意や回収の効力を否定される意味合いを持ちます。

 回収や担保設定(経営危機時期の設定)についてのリスクはこうした後で効力をひっくり返される・場合によっては賠償請求を受けかねないという点です。総裁も同じように優先回収の意味合いを持つ制度ですが,経営危機時期の相殺については同様の効力をひっくり返す(相殺制限)制度が存在します。

 

 販売した商品には先ほど軽く触れた法律上当然に認められる担保権(動産売買の先取特権と呼ばれるもの)が存在します。この制度を使った回収も法律で定められた手続きを取らなければならないのが本来の話ですので,今回のタイトルにあるいきなり回収を図ることがどうなのかという問題は出てきます。

 

○売買契約などを契約解除あるいは合意のもと持ち去る場合は?

 契約解除をすれば契約はなかったものになるので商品は回収は可能です。そうでなくとも合意のもと回収する事柄は,未払いになっている代金などを商品によって支払う合意をしたものと言えます(この合意を代物弁済,要はお金ではなくモノによって支払いをする合意,代金は支払ったことになり回収を図ることができます)。

 

 経営危機時期について先ほど効力をひっくり返すことができるという規制を先ほど触れました。これは,経営危機行きにはイメージしやすいところですが,我先にと回収を図る・人間関係等から特定の債権者の回収を図るようにすることで,債権者を不平等に扱う・他の債権者の回収が図りにくくなるという点が出てきます。倒産手続きでは債権者に平等に泣いてもらうために,平等取り扱いを図る・その他経営危機時期でも同様に考えるというために導入されたものです。

 

 先ほど触れた法定の担保権があって優先回収することが可能であるという話を触れました。これは当然その代金などの金額の範囲での話です。商品で代金を支払ったとする場合には,この優先回収ができる範囲での話なので特に他の債権者を不平等にすることにならないのではないかという話が出てきます。実際,販売した商品が取引先に残っている場合に,相手の合意を得て引き上げた場合に,先ほどの効力を否定する制度の適用を受けないという判例(最高裁昭和41414日判決民集204611ページ)が存在します。

 ただし,取引先が転売+引き渡しを転売先をした場合には話が変わってきます。これは,法律上転売をした場合であっても,転売代金を優先回収する権利が元々の売り主には存在します。商品の回収権も法定の手続きをとれば本来存在します。しかし,法律上,商品については別の方に引き渡しをした場合には回収することができないとされており・転売代金に該当するお金も別の方に支払う等すれば同様に回収ができなくなるとされています。転売が行われ商品を転売先に引き渡し・その代金になるようなお金が無くなった状況で,商品を取りもどす行動は本来回収できない商品を回収できないように担保を付けた行動と評価され,その効力を否定される可能性が高くなります。

 

 分かりにくいので,まさしくこのような判断を行った判例(最高裁平成91218日判決民衆51104210頁)を触れておきます。最近はあまり使われなくなった手形を使っての取引で仕入れた商品を転売後に手形不渡りになり,元々の売り主から商品を返すよう供給され・買主が転売先との転売契約を解除し商品を取り戻し,その後元の売り主が引き上げて代金回収を行った(代物弁済を行ったという話です。手形不渡りとは,支払い期日に支払いがなされないことで手形による回収ができないことで通常は経営危機時期に起こります(銀行取引は停止になります)。

 この場合に,本来は転売と引き渡しによって元の売却した商品は優先回収できなくなったにもかかわらず,新たに優先回収できるようにした行為が債権者を不平等に扱うと判断されています。

 

○取引先の合意なく持ち去り回収する場合には?

 勝手に持ち去る行為は法律上許容されていません。何かしら合意があったといえる事情があればともかく,そうでない場合には取引先あるいは倒産手続きでの関与者からの愛称請求を受けるリスクが存在します。こうした問題を取り扱った裁判例はいくつもありますが,そのうちの一つとして福岡地裁昭和59629日判決判例タイムス533191頁があります。

 

 このケースは経営不振となった事業者が裁判所を通じない形で整理を行おうとしたところ,債権者が多数事業所に押し掛け商品回収などを図ろうとし,一部の債権者は勝手に商品を持ち帰ったというものです。持ち帰られたことについての損害賠償のお金を代金(厳密には手形による回収できるお金)と相殺できるかが争われたものです。相殺を行う損害賠償をする場合にあたるのかどうかが争点となっています。

 いわゆる取り付けにあたりますが,損害賠償が生じるかどうか(法律上の不法行為と言えるのかどうか)について裁判所は一定の判断基準を示したうえで,このケースでの具体的な事実関係から賠償請求は認められると判断しています。このケースでは商品を持って行った事実は争いがありませんが,販売した商品などを平穏に引き合上げた等との反論が出ていて,引き上げの態様や引き上げた商品などだけなのかなどの事実関係も争いが出ています。

 判断基準は取引上の債権回収として社会一般の考え方に照らして許容される程度の引き上げ行為であったのかというものです。このケースでの認定された事実は,相手先の経営危機が生じた後に・相手先が止めるよう生するのを振りほどいて商品を持ち去るものであった・持ち去った商品も販売した商品以外の商品も相当程度含まれていた(引き上げだけとは言えない側面)・引き上げた側も返品ではなく半値程度の金額で新規に仕入れたものとして経理処理していること等です。そして,今あげた認定された事実部分から許容される回収行為ではないとして賠償責任を肯定しています。

 ここでは民事の賠償責任の話ですが,相手が管理しているものを強引に持ち去る行為は窃盗罪あるいは強盗罪などに該当する可能性もあります。

 

 

 経営危機時期に相手の同意なく持ち去る場合には,それが商品の引き上げと言える範囲なのか・引き上げ時の態様が穏やかなものであったのかなどがポイントにはなります。同意がない場合には,賠償請求以外にはお金の請求を受ける可能性はなくなりますが,相手の制止を振り切る場合には民事・刑事上のリスクを負いかねない点は無視できないでしょう。

 一方で合意をしての回収の場合であっても後でその合意による回収の効力を否定される⇒回収したはずのお金の支払いを呼びなくされる場合がある点も注意が必要です。法律上の手続きは煩雑ではありますが,リスクも頭に入れたうえで早期に手続きをとるかどうかを決める必要があります。筆者個人としては法的手続きを取った方がいいのではないかと思います。

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