法律のいろは

2022年7月28日 更新債権回収のご相談

いざという時のお金の回収に役立つ「相殺」。その注意点とは?

○相殺をするためには?

 

 お金を請求する権利を相手に持っている場合に簡単な決済の方法や相手に支払い能力がない場合に回収を図る方法として相殺と呼ばれるものがあります。意思表示だけでお金の決済ができる面がありますので便利ではあります。商取引で大量に決済する場合には交互計算という仕組みが存在しますし,相手から自社・自社から相手へのお金を請求する権利(売掛金や貸金など)がある場合には清算によってお金の回収を図ったことになる点が一番のメリットと言えます。

 とはいえ,相手に支払い能力がなく破産などの手続きに移行する場面などでは実際上優先回収を図る意味を持つので法律上こうした優先回収を制限するものが存在します。

 

 

相殺はお互いの間にお金を請求する債権が存在し,支払い時期が到来していて・相手に対して履行すべき義務が存在しないといった前提を満たしていれば意思表示を行えば相殺をすることはできます。問題となるのは証拠となる書面を残していない場合にはい事実関係を争われる可能性があります。総勘定元帳などで数字上清算しているものも根拠の一つにはなりますが相殺の合意あるいは通知の書類を残しておいた方が無難でしょう。

 

 支払い時期については自らの支払い時期が来ていない場合には支払い時期は猶予なので猶予を放棄して相殺の通知をすることは可能です。相手に対する履行すべき内容が存在する場合にはその履行をする必要があるのが原則です。ただし,請負工事の報酬請求に対し修理などの工事の代わりに被った損害賠償請求を行う場合には特に履行を問題とする意味がなくなることから履行は問題とならなくなります。

 

 ちなみに,請負工事を行うことになっている業者が業績不振から経営破綻した場合には破産手続きその他で報酬請求を受ける場合(一定程度の報酬が発生する事情が必要)があります。この場合に先ほどの途中で終わることで被った損害を相殺する意味が出てきます。後で触れる比較的最近の最高裁の判断のケースもこうしたケースに関わるものです。

 

 相殺にはお金の回収を相手の危機時期に優先して行える半面,危機時期になったら債権を譲り受けて相殺できるようにする。差し押さえがあった後に差し押さえを受けた債権を取得して相殺を受けること等には法律上相殺が制限されています。他の債権者の利益を侵害すること等の理由によるものです。このほか法律やお互いの予めの合意で相殺を禁止している場合にも相殺をすることはできません。こうした制限にかからないように相殺ができるように支払い期限が一定の場合には来るように予め合意をするとともに,相殺ができるようにしておくことは実際上契約の合意上(典型例として銀行取引約款等)行われていることはよくありますので,お金の回収の面では注目をしておいてもいい話です。

○相殺が禁止される場合とは?

 

 先ほど挙げた予めの合意で禁止する以外に法律上禁止されている権利以外には破産などの相手の危機時期以降に権利を取得した・相手に対する負債を破産の手続きがあった後に取得した場合・差し押さえの後で取得した権利のうち,差押え後に生じた原因である場合には相殺ができないとされています。

 ここでいう禁止に引っかかるとどうなるかと言えば,後で相殺による回収の効果が否定されるというものです。相殺の禁止は後に破産に相手先がなる場合には一定の場合に限定されていますが,もっぱら相殺をするために支払いが困難になった後に負債を負担する場合など様々に規定されていますので,いざという時のお金の回収には禁止に引っかからないように注意をしておく必要があります。

 

 比較的最近こうした相殺の禁止に引っかかるのかどうか・相殺の対象となる権利がどのようなものかが争いになった点を判断した最高裁の判断が存在します(最高裁令和298日判決民集74・6・1643)。このケースは請負工事契約に基づいて施工をおこう途中であった業者が経営破綻しその後破産手続きに至ったというものです。破産の手続きでは破産管財人がつくケース(会社の破産では破産管財人が選任されるのが通常です)で,会社財産の清算・それに先立ちお金の回収を図ることになります。そのための請求に対し相殺を行ったものの,総裁が相殺禁止に引っかかるのかなどの点が問題となったものです。

 このケースでは,工事は途中で終わっているものの,工事契約自体は複数存在し一部の工事契約では工事完成によって報酬請求はできた・工事契約に途中で相手の原因により施工ができなくなった場合の違約金条項が存在し,違約金をもって相殺ができるのかが問題になりました。

 

 問題となった点は,違約金は施工業者が経営破綻で施工できなくなったことによって生じるので支払い停止になった後で取得するものであること・報酬請求を行う工事契約と違約金が生じる工事契約は同じ施主・施工業者の間での契約ですが別の契約であることをどう考えるのかというものです。

 相殺の禁止に関わる点の法律の規定は,支払い停止・不能になった後に取得した請求権で取得時に相殺をする側が支払い停止・不能であることを知っていた場合には相殺が制限されるというものが一つ目です。当然この規定からすると,違約金は支払い停止・支払い不能後に取得するものですから該当します。そうなると相殺できないのかというとそうではなく例外が存在します。それは,問題となる相殺をする請求権が支払い停止・支払い不能を相殺をする側が知る前に存在した原因の基づく場合は相殺は可能というものです。

 違約金条項をも伴う請負契約がその施工業者に発注する段階で相手の経営不振(支払い不能あるいは支払い停止という内容)を知っていなければ該当しませんので,通常こうした状況で発注する方はいないでしょうからそこまで問題となることはないかと思われます。実際今回の違約金を伴う契約でも同様といえるものでした。

 それではさらに問題となった点は何かといえば,違約金が生じた契約と報酬が発生した契約は別々の契約であった点が何かしら相殺に影響するのかという話です。法律上はこの場合に相殺を制限する規定はなかったものの,問題となったケースの第2審で別々の契約の場合には相殺禁止の例外に当たらないと判断したものです。最高裁では法律上こうした限定はないため相殺禁止の絵以外にあたる⇒相殺可能としています。

 

 実は同様の問題点は破産などに至らずとも差押えがなされた権利に対して相殺を行えるのかどうかという点にも存在します。差し押さえをされると処分を制限され(返済を受けることもできない)るため,差押えをされること自体が相手の支払い能力に疑問を持たれる事情であることから,ここで相殺によって回収が可能なのかどうかは重要な話になってきます。民法では,差し押さえを受けた権利での支払い義務を負う側が相手(差し押さえをされた側)に対して支払いを求める権利を取得した場合に一定の場合に相殺を制限しています。それは,「差押え後に相手に対する請求権の発生原因が生じている」権利を差押え後に取得した場合です。差し押さえ前に発生原因がある場合には相殺は可能となります。秋ほど挙げた最高裁の判断はここには及んでいませんが,相殺の禁止がかかるかどうかという似た話についての判断ですので,影響が及ぶ可能性があります。

 

 いずれにしてもいざという場合に相殺ができるように契約上備えておくことはリスクと隣り合わせな面はあるものの回収上重要ですので,注意が必要です。

お電話でのお問い合わせ

082-569-7525

082-569-7525(クリックで発信)

電話受付 9:00〜18:00 日曜祝日休

  • オンライン・電話相談可能
  • 夜間・休日相談対応可能
  • 出張相談可能

メールでのお問い合わせ

勁草法律事務所 弁護士

早くから弁護士のサポートを得ることで解決できることがたくさんあります。
後悔しないためにも、1人で悩まず、お気軽にご相談下さい。

初回の打ち合わせは、有料です。
責任をもって、担当者が真剣にお話をきかせていただきます。
初回打ち合わせの目安:30分 5,500円(税込)