
これまで何度か,契約をするにあたっての契約書とそこに書く文言の重要性について触れてきました。まとめると,曖昧な合意であれば契約が成立したのか自体が問題になることもありますし,どんな内容であったのかが問題になることもあるため,そうした紛争リスクを避けることに意味があります。こうしたリスクをコントロールすることに文言を明確にする意味があります。
不明確な場合は,法律の定めその他によって補充されますが,文言が不明確な場合に多くはその点を知らないで話を進めることが多く,「言った言わない」の問題に小さな会社の場合は陥りがちな傾向にあります。
たとえば,大家業をしている場合に,貸している家などの家賃の支払い時期が不明確である・借主の義務に関して定めがないものの,口頭で曖昧な合意をしていた場合にはそれぞれの思惑によってトラブルとなりかねません。家賃の支払い時期は,法律上貸しているものの性質によって定められていますが,意に沿わない場合にはリスクとなってしまいます。次によくあるお金の貸し借りですが,単に借用証というだけではお金を借りたということの証拠にはなりますが,単に分割払いにするというだけでは一括請求はできないという点にも注意が必要です。一括請求をするには,延滞が生じた場合に一括請求ができる条項(詳細は触れませんが,期限の利益喪失条項と呼ばれるものです)が必要になります。
そのため,契約書では重要な事項については明確化する必要があります。見積書と注文書で発注をする(契約が成立する)という扱いをするケースもありえますが,この場合でも発注の条件(見積もりを行った・発注をした対象の明確化・いつまでに受注した内容を履行するのか,代金はいつまでに支払うのか・その他,予期しない事柄が起きた際にどのように扱うのか)等は明確化する必要があります。
口頭で合意をした場合に問題となるのは,何が合意に達したのかが曖昧であること・合意をしたことの証拠が残らない点にあります。ずっと取引をしてきたから問題はないという側面もありますが,新規の取引先とならば書面の取り交わしをするというのであれば,既存の取引先とも取り交わしをしておくことで紛争の予防とそれに伴う信用の確保ができるという点の注意は必要です。
また,とおり引きをするに際して,相手方から基本契約書等の書面に署名をするように求められた場合に,その文言とそれまでの話で出ていた事柄に齟齬が出ている場合には,署名は見合わせた方がリスクは軽減できます。もちろん,何事もなければいいのは言うまでもありませんが,何かしたの行き違いや予測していないことが発生した場合に,取引先は書面の契約書の文言通り,当方では話で出ていた意味でという解釈の違いが出た場合には大きな面倒になってきます。契約書は一つの大きな証拠となりますから,その意味を覆すには他に大きな証拠が必要になりますし,お互いの言い分が大きく食い違うと裁判など時間とお金をかけることになりかねません。
こうしたリスクの対応は,普段から業務上定着させることで大きく軽減ができますから,新規の取引先の一部とだけするというのではなく,全ての取引先と行うことを社内的に徹底しておくことが重要となってくるものと思われます。