法律のいろは

2022年11月2日 更新契約問題のご相談

今さら聞けない原状回復義務にハウスクリーニングや畳の張替えその他が含まれる場合と含まれない場合とは?

○契約書に「ハウスクリーニング借主負担」と書けば終わりではない。

 賃貸借契約を終わる場合に明け渡しや清掃とともに,各種費用の負担が問題になることがあります。その中でも「原状回復」と呼ばれる借りた側が借りた際の状況に戻す場合の負担はどこまでなのかは現在でもトラブルの可能性が出てくるものです。これまで多くの裁判例や最高裁の判例も存在することろではありますが,特に古い書式を使っているオーナーの方の場合には敷金返還額を含めて問題になる可能性があります。

 今回はいまさらながらの話化までは分かりませんが,特に個人の方に沈愛する場合のハウスクリーニングなどの費用負担の話などを触れていきます。

 

 

 契約書で「ハウスクリーニング借主負担」と書いておけばそれで借主が貸主が行ったハウスクリーニングの費用を当然負担するのかというと実はそうではありません。もともと,ハウスクリーニングは激しく部屋を傷づけていた等通常使っていた場合以上の汚れや傷がある場合には,借主の負担ということはできます。しかし,通常のハウスクリーニングで想定されている一般的な清掃はその対象外です。似たものに畳などの張替えもあります。

 

 だからこそ契約書で記載しておくことで対応するのだという意向を考えてしまいがちとは思いますが,これまで幾多の裁判例や判例(つまりトラブルが多いという意味もあります)での判断からすると,これでクリアできないというところがあります。ちなみに,現在の問題状況や書式など注意点を整理したものとして国土交通省の原状回復ガイドラインが出されており(改訂が随時されています)参考にはなります。

 

○最高裁の判断ではどういっているのでしょうか?

 一般消費者の借主と貸主のこうした問題について,最高裁平成17126日判決で一定の判断を出しています。まず,ハウスクリーニングや畳の張替えなどの通常は貸主が対応すべき点を契約の条項によって,借主負担へと変更することは可能であるとしています。

 

 ただし,例外的な負担を借主に貸すためその保護の観点(不意打ち防止)のために,ハウスクリーニングなどを借主とすることが明確に合意をされていることが要求されています。契約書上でなくても口頭で説明をして了解を得ていればいいともされていますが,言った言わないを避ける必要があるので書面であった方がいいでしょう。ここで不意打ち防止というためには,本来は原状回復義務の対象とはならない「通常の損傷への対応」であること・負担を加重することになっていること・借主の負担の範囲がどこまでなのかが明確に合意をされている必要があります。

 

 ここをそのままいうのであれば,賃貸契約書中に「ハウスクリーニング借主負担」等単に借主負担事項を記載するだけでは,そもそも本来は貸主負担なのかすら不明確ですし,どこまで負担内容を負うのかが明確ではありません。したがって,対応の一つに借主の負担部分と借主の負担部分を対比する・借主に特に負担を求める(多く負担が行く・本来は通常損傷部分の話である)ことを説明し了解する書類を書いておく,ハイスクリーニングの費用額を記載する等の対応がありえます。

 

 ちなみに,最高裁で問題となったケースでは,契約書に別紙で修繕費負担表ということで,どの部分の補修がどのような状態となった場合に必要となるのか・などが記載されていました。このケースではここに記載された襖紙などの汚れ・仕上げ材の汚れの補修負担が通常損耗で負担の合意がなされていないか合意が無効かが争いになった(この費用分の敷金の返還を借主⇒貸主に求めたもの)になります。

 このケースで判断はこれでは通常損傷の負担の合意があるとは言えないと判断しています。その理由として,これでは通常損傷部分の負担を含んだかが書類上明確ではない・金額なども明確ではない等のためというものです。ちなみに,このケースでは民間の賃貸住宅ではなく都道府県の住宅供給公社が運営する賃貸住宅の話ではありますが,個人への賃貸得ある限りは同様であると考えられます(別に考える理由がないため)。また,このケースで最高裁が示している要求内容は「少なくとも」と記載されており,最低限のクリア内容である点には注意が必要です。また,ハウスクリーニングや畳張替えなどもここに含まれるでしょう。

○最近の裁判例となったケースでは?

 

 最近でもこの最高裁の考えに沿って同様に敷金返還やハウスクリーニングやエアコン・クロス・カーペットなどの対応が原状回復に含まれるのかが問題になったものはあります(東京地裁令和31117日判決LEXDB25602355)。

 このケースでは管理会社はいたものの,「貸主などが必要と認めた場合に,その指定する者が貸主などの指示を受けて行った原状回復工事の費用を借主が負担する」という概略の項目を踏まえて,原状回復費用に問題となっている費用が含まれるかが争いになっています。エアコンが壊れていない・クロスも特に大きく汚れていない等単に通常の時間経過に基づくものは通常の損傷によるものなので合意が有効にされていないと,敷金返還をすべきことになります。

 

 そして,結論から言えば一定の個所で通常損傷部分の合意はされていないとされています(ルームクリーニング代など一部は借主がそもそも原状回復義務を負うことを争っていないため,敷金返還の対象から外されています)。この内容ではどこまで負担を負うのか・特に重い負担なのか全く不明確ですから,借主から争われている場合には貸主側の勝ち目は薄いことになります。もちろん,とりあえずは契約書の項目に沿って対応を貸主側としてはしてみるのは一つの方法です。敷金額はそうは比較的少額であることも多いので,どこまで借主再度も本気で争ってくるのかという問題もあります。とはいえ,このケースのように裁判まで争ってくる場合には判決では厳しい判断が貸主に下される可能性も十分にありますので,どのように解決案を示すのかを考える必要もあります。

 

 負担を特に多く求めることになる点を説明し同意を得るのは簡単ではない意味もありますが,通常契約段階ではトラブルが起きていることはないので,ここで一通り説明して同意をとっておくほうが後で問題が発生した後よりは簡単ではないかという意味合いもあります。

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