
はじめに
医療・介護関係を中心に,人手不足を解消するために人材紹介会社から,人材の紹介を受けるケースが増えてきています。その場合,事前に必要とする人材の適性や能力などが十分に伝わっていないなどから,せっかく採用しても職員が職場とミスマッチを起こし,欠勤したり急にやめてしまうことで,返金のトラブルが生じることがあります。今回はこういった返金をめぐるトラブルを防ぐための注意点を取り上げます。
人材紹介会社が有料職業紹介事業の許可を受けているか確認を。
人材紹介会社は求職者に職業を紹介することから,職業安定法の規制を受けます。職業安定法には,職業紹介の定義があり,「求人及び求職の申込みを受け,求人者と求職者の間の雇用関係の成立をあっせんすること」とされています。人材のあっせんを受けて紹介を受けた会社と求職者の雇用関係が成立したときに求人をしていた会社から人材紹介会社へ手数料(紹介料)を支払う場合が一般的です。
なお,人材紹介者が求職者から手数料を受け取ることは,法律上原則として禁止されています。
手数料(紹介料)については後で触れます。
人材紹介会社は有料職業紹介ですので,資産の額が500万円以上あることなど財産的基礎に関する事項をはじめとした許可の要件が決められていて,その要件を満たす場合,都道府県労働局を通じて厚生労働大臣の許可を得ることが必要になっています。人材紹介会社が許可を受けているかどうかは,厚生労働省職業安定局の「人材サービス総合サイト」で確認することができます。また,人材紹介会社の許可番号がわかれば行政処分の有無についても調べることができますので,まずはこういったサイトを確認して,利用しようとする人材紹介会社が有料職業紹介事業の許可を得ているかを確かめておきましょう。また,実際に利用するにあたってほかの事業者での評判はどうかといった情報も集めたりするのもよいです。実際に利用したことがある事業者がいれば,取引実績や採用した人材が定着しているかどうかも聞いてみるといいでしょう。
紹介を受けた場合の報酬や返金料の条件は事前にしっかり確認を。
人材紹介会社を利用するにあたっては,まず基本契約書等の取り交わしを行うことになると思いますが,その際に注意すべき点は報酬(手数料・紹介料)の決め方と返金ができる条件などです。
まず,報酬については原則として人材紹介会社の方で自由に決めることができますが,業界全体では年収の20~30%と定めていることが多いようです。特殊な専門的な能力が必要な職種の場合には40%以上とされていることもあるようです。年収については通常入社1年目のものを基準とし,営業職など変動で決まる給料の部分が多い場合は平均額で決めるということもあるようです。この点については実際の年収ではなく理論(標準)年収で決めることが多いため,理論年収の計算の仕方については事前に確認しておくことが必要になります。
報酬が発生するタイミングは通常求職者が入社した日とされることがほとんどです。
これに対してトラブルになりやすいのがせっかく求職者を採用したにも関わらず短期間で欠勤続きであったり,実は隠された病歴があったり等した場合です。求人をした会社からすれば,せっかく多額の費用を支払ったにもかかわらず,また求人をしなければならなくなるという負担が出てきますから,返金してほしいところです。
しかし,実際のところ契約内容によっては簡単に返金が認められないケースがありますので,この点については契約時によく気を付けておく必要がありますし,事前にきちんと説明をしてもらうことが大切です。
一般的には短期間(通常1か月から6か月の間)での自己都合による退職の場合には,退職する時期に応じて返金割合が決められていることが多いです。また,能力面が想定の水準を満たしていなかった場合の返金率,就労に支障がある病気を隠して入社し,想定の能力を発揮できなかった場合の返金率など定められているか確認しましょう。中には自己都合退職の場合しか定められていないこともありますので,契約してトラブルになったあとで返金を求められないことに気づいたことがないようにしましょう。
人材紹介を受けるにあたって事前に十分な打ち合わせが必要。
よくトラブルになりやすいのがせっかく人材を採用したのに,求める能力を満たしていなかった,という場合です。もちろん,能力面の問題であれば教育によりある程度カバーできるにしても,もともと人手不足のために人材紹介を受けたのに,教育を施すのにさらに手間暇がかかってしまうようでは元も子もありません。人材紹介の担当者が,求人を求める会社のニーズにきちんと答えようとする対応をしてくれるかについても,契約前に十分気を付ける必要があるでしょう。
また,実際に採用するか決めるにあたって,紹介を求める会社の方も人材紹介会社に頼りきるのではなく,面談等で能力面が求める水準を満たしているか,職場になじめるかなどを直接確かめてからにすることも重要です。さらに求職者の方から雇用条件について聞かれるでしょうから,それに対してもきちんと説明することで,入社後のミスマッチが生じないようにしましょう。
以上取り上げた内容を含めて,厚生労働省では,「職業紹介サービス利用の注意点」として簡単なリーフレットを作成しています。ポイントを押さえたわかりやすい記述がしてありますので,併せて活用していただければと思います。