
設計を行う業務は無償?有償?
家その他を建築する場合に,設計業務を行うのが通常ですが,特に施工一体の場合には営業のためにやってもらっている(施工についての請負契約があって初めて費用が生じる)という意識を持たれるお客様がいらっしゃるかもしれません。施工一体型でなくても同じような方はいらっしゃるでしょう。他方で,業務提供をする側からすると,時間を使って業務提供をしているのだから費用が請求できないのはおかしいという意識が出てくるところです。
業務を行っている場合には,中途で終了しようとしまいと何かしら設計に関する合意が設計者側とお客様側で成立しているはずです。契約でかっちりと決めていない場合・契約書を作っていない場合には,お互いの意志がこうだったのではないかという話の解釈とそのためのヒントとして法律の規定を使っていくことになります。ここで,お互いの意志がこうだったという話は合意をした際の事情やその後の業務提供の流れの状況を見て考えていくことになります。費用が請求できるかどうかが問題になる場面では,お客様側から無料という合意だった・無料というのが業界慣行だという話が出てくるでしょうし,費用を支払うという意思がないからそんな合意はないという話が出てくる可能性もあります。後になってからの話では水掛け論になることもあり,こうした点を考えていくことになります。
お客様とのやり取りの中でサービスをする・無料でするという話が出ていれば,無料という話になりますから問題はありません。これに対して,お客様側から依頼をする・無料という話はなかったという場合には有料という可能性が高くなってきます。実際に打合せの時間や設計の業務に相当の時間を使った・成果物が出てきたという場合には,そこまでの時間や労力を無料で提供をプロがするとは考えにくいので,有料という話が出てきます。
無料という話が出ていても,どこまでかをはっきり言っていた場合には,他の部分への業務提供は有料と考えられる可能性もあります。実際のやり取りの内容や業務提供の時間や量などに左右されます。
ただし,有料とは言われてもいくら請求ができるのかという問題があります。相当程度の報酬ということになりますが,業務を提供する方の報酬基準や提供している業務の内容や量などを考えての金額になります。ここがいくらか争いになる点が明確に合意のない場合の面倒な点になります。
ちなみに,無料にするという話がない場合でかつ有料という話もあるわけではない場合であっても,設計業務を提供できる方が設計業務を提供した場合には,法律の規定によりやはり相当程度の金額の報酬を請求できます。この場合先ほどと同じように考えていくことになりますが,裁判例の中には建築士法の規定による基準であるというものも存在します。
契約書を作り,解約した場合の費用請求の項目を設けている場合は?
先ほどの話は書面の取り交わしがない場合の話です。これに対して,設計業務を行うまでに書面を取り交わし(書面の取り交わしがなくても合意としては意味を持ちますが,言った言わないを防ぐためには必要でしょう。)て,その中で一定の場面(業務提供が進んだ場面)での解約について,費用の請求に関する決まりを置いておけば原則として,その金額を請求できます。
ただし,決まりを置いておけば全く問題がないというわけでなく,実際の相当程度の報酬を大きく上回る金額を定めている場合には,一般消費者(個人)をお客様とする場合には,後でそうした決まりが無効となるリスクがあります。クレームを防ぐという観点からは,一定程度の合理性を盛った金額で定めておくことが有効になってくるでしょう。