自社ブランド・商標などを使ってもらうことの法的なリスク
独立する従業員にのれん分けの形でサロンを売却する場合・フランチャイズ形式で自社のブランドや標識などを引き続き使ってもらう等,従業員自体は経済的にも経営的にも独立をしてもらうということはありえるでしょう。こうした場合,独立した従業員が業務で契約した事柄の責任(代金の支払いなど)やトラブルの賠償責任などを負うということになれば,大きなリスクとなりかねません。
このうち,代金支払いなどの契約面でのリスクについてまず触れます。普通に考えると自社で取引していないものに何かしらの負担が生じる可能性があるのはおかしいという話になります。これは正しいのですが,法律上は,自社が取引をするような外見を作り出して取引先が自社との取引であると正当な理由があって信じた場合には,例外的に負担が生じるとされていますので,面倒な話になります。
のれん分けの場合も自社と同じ屋号を引き続き使ってもらうことを許容する場合には,元が同じサロンであることもあって同じような問題が出てきます。フランチャイズ形式の場合,一般には自社の標識・商標などを使ってもらい,この信用力を使って加盟店に営業をしてもらうので,自社のブランド・標識・商標などは取引上は重要な意味を持ちます。そのため,ここで自社が取引をすると信頼を取引先が持つ可能性が出てきます。特に,従業員に既存のサロンを独立して運営してもらう場合には誤解を招く可能性が高くなります。
ただし,フランチャイズ形式一般的には,BtoB取引が多いことから,取引相手は加盟店が独自に取引をしていることは通常分かっているだろうから=自社が取引をしていると信じることはない(正当な理由から信じることはない)から,自社が加盟店の契約について負担を負うことはないという考え方もあります。
名称や信用供与がフランチャイズ形式の特徴の一つですしもとは自社のサロンであるために,誤解につながる可能性自体はありえます。もちろん,仕入れ先などこうした形態をよく知っている会社や個人事業主が誤解をすることは考えにくいので,実際上トラブルに巻き込まれることはそこまではないとは思われますが,注意は必要でしょう。
次に,独立した従業員の営業するサロンでの普段の業務でお客様をケガをさせてしまった場合に自社は賠償責任を負うことはあるのでしょうか?この話についても先ほど触れました取引の負担をおうのかどうかと同じような話が言えます。裁判例上も,自社の業務という外見を作り出した場合に賠償責任を認めたものはあります。厳密にはスーパーマーケットのテナントでの事故・ホテル内に出店していたマッサージ業者の起こした事故(いずれも業務中の事故)について,スーパーマーケット・ホテルの賠償帰任を認めたものです。
特にこうした場合には,一般個人であることが多いお客様からの請求の可能性もあり,先ほど触れました場合と同様に独立して業務をしていることを知っているはずとは言えない可能性も出てくるかもしれません。
注意をする点
先ほど触れましたように,普段から業界での取引をしている業者の方で問題となる取引の話ではそこまで問題が生じることはないだろうと思われます。これに対し,一般消費者である個人の場合には,当然に別事業主であることを知らない可能性もありますので,注意が必要でしょう。
ポイントとなるのは誤解を与えたと評価されるかどうかです。広告・宣伝をするときの表示がどのようにされていたか・面倒ですが,サロン内に加盟店であることを見える場所(分かりやすい位置)に表示をしてもらう等サロンでの表示の仕方などが大きなポイントになってきます。広告や宣伝の際に自社であると誤解される表現を入れることを許容している場合には,リスクにつながりかねません(その分自社の信用をいかした宣伝にはあります)ので,バランスをとってリスク回避も図る点が重要かと思われます。加盟店であることを宣伝・広告にわかりやすく入れておくことは意味を持つでしょう。
このように,自社の信用を活かした営業展開とリスク回避をうまく調整することが思わぬ落とし穴回避につながります。