美容室でのカットなどの依頼のトラブル。法律上はどうなる
美容室で多く見られるだろうトラブルとして,カットなどをしてもらった後にお客様から,パーマを当てたところ期待していた髪型と異なるなど頼んだものと違う・短く切られすぎた等のクレームがあるかもしれません。こうしたクレームが起きる原因として,そもそもどのような髪形などにしてほしいのかといった希望するものが伝わっていない等意思疎通上の問題が考えられます。現場の方も実際の希望内容などを聞き取る努力をすることも必要ではありますが,説明が不十分である場合に後で問題があったという話が簡単に通るわけではありません。
法律上は,サロンでのカット等の依頼をする際には,専門家である美容師の方が依頼の趣旨に沿って一定の裁量をもって仕事をするということを内容とすると考えられています。これは,美容契約が法律でいうところの「準委任契約」と考えられ,美容師側に一定の裁量をもって,仕事を行うものと考えられているためです。このため,依頼の趣旨が曖昧である場合には,手直しや返金に応じる必要はありません。
ただし,場合によっては,お役様からヘアカタログを示して,カット・シャンプー・カラーリング・パーマをしてカタログと同等の内容を行っていくことがあろうかと思われます。こうした場合に,ヘアカタログ通りという指示と承諾があれば,その内容に至るよう一定の裁量をもって美容師側で仕事をしていくようになりますので,この場合には依頼通りの仕事を行う義務を美容師が負う請負契約に近いものといえるでしょう。準委任契約であれば,完成について責任を負うことはないという考え方もありますが,法律改正によって成果を実現する形の準委任契約が正面から認められることになります。
この場合,結論としてヘアカタログ通りの内容を行うという合意がありますから,基本的にはそのとおり行う必要があり,手直しは必要になります。いずれにしても,どこまでの指定があったのか等具体的な事実関係によるところになります。
実際のトラブルが裁判例で判断されたものとして,依頼した髪型が実現できなかった・施術途中での変更について安請け合いがあったのは説明義務違反だということでサロン側が損害賠償請求をされたというものがあります。お客様側からカタログを持ってきて施術を依頼したためにサロン側で施術を行ったものの,途中で変更をしてほしいとのお客様からの申し出があったため変更をしたという経緯がありました。
事実関係が大きく争いになっていましたが,依頼した髪型が実現できなかった点については証拠上認められないと判断をしたうえで,途中での変更についても安請け合いをした事柄はなく,美容師側が裁量から逸脱した点はないと判断をしています。ちなみに,この裁判例では美容契約は「準委任契約」とされています。
このケースでは途中に変更を求められたために話が複雑になっていますが,カタログを示された場合にはきちんと確認をしておくこと・説明をきちんとしておくことで,美容師には一定の裁量がありますので,リスクを抑えることができるでしょう。これに対して,シャンプーなどの薬剤で頭皮のかぶれなどを起こした場合には健康被害を起こすことが裁量の範囲とは言うことができませんので,賠償責任の問題が出てきます。
トラブルを防ぐには
結局のところ,実際どの程度具体的な髪形などの指定があったのか・その際にどのような説明や対応をしたのかが問題になってきます。普段から研修で,どういった髪型などを希望するのかをきちんと聞き取るようにする・特に途中で変更をお客様から申し出られた場合にはトラブルになる可能性があるので,そこから変更を実際に行うことができるのか等をきちんと説明するようにしていく必要があります。
こうした事柄が問題になるのはクレームが生じた際になりますが,どのような事実関係があったのか(やり取りや説明がどうであったのか・どのような髪形に結局はなったのか)をきちんと記録をつけていくことは不可欠です。もちろん,明らかに不自然な髪形である場合や,素人が見ても失敗であるという場合には依頼を遂行したことにはなりませんので,そうならないような技術研修や問題が起きた場合に誠実に対応する必要があります。
突然こうした事を行うことはできませんから,習慣づけと研修は不可欠といえるでしょう。経営判断で本来は手直しの義務がない場合(お客様の依頼が曖昧であった場合や依頼通りに一通り行っていた場合)に手直しをすることはありえますが,説明などはきちんと行っておいた方がいいように思われます。