退職後は,退職金の減額や損害賠償請求が考えられるところです。できるかどうかはともかく,退職後は少なくとも就業規則の定めや個別の合意がないと,退職金の減額などはできません。
他方,損害賠償については就業規則の合意がなくとも,会社の営業権を侵害しているといえるケースでは,請求が可能です。営業権侵害は,お客様や従業員その他業務に使う機密情報や顧客情報などを侵害(無断持ち出しや引き抜きなど)を行うことで,会社の事業にダメージを与えることを指します。
問題になるのは,一般の競業の問題でも出てくる,従業員の転職の自由やそもそも引き抜き行為があったといえるのかどうかという話になります。前者の問題は,自社の権利を守るためにほかの方の権利を当然には侵害できないので,調整上自社の権利を守ることが優先するのはどんな場合なのかという話です。違法性のある行為・社会通念から見て逸脱した行為といわれるものが当たります。
引き抜きについては,ある従業員の退職後に何人か別の従業員が対象をした⇒転職先が同じ,という場合に引き抜きがあったから起きた話なのか・単に各自の判断などによるものなのかという事実関係の問題になります。
結論から言えば,損害賠償請求が認められるかどうかは前述の営業権の侵害=違法な行為=競争から逸脱した行為が認められるハードルは証拠関係の話から言っても,裁判例上もそれなりに高い壁が存在します。
引き抜きを防ぐには,退職後の引き抜き行為に対するペナルティを就業規則や退職金規定に入れておく,覚書を交わしたとしても,そもそもの事実関係をクリアできるのかどうか・クリアできそうな事柄からの見通しが重要になります。引き抜きに当たるやり取りがわかる証拠があるのか・証拠から言える内容や異動した人間の特性や業界の人の異動事情・業務上知りえた情報の持ち出しや利用が言えるのかが大きなポイントとなってきます。