法律のいろは

2021年1月25日 更新事業承継

『中小M&Aガイドライン』とは?その概要と活用について

    特に中小企業の後継者不足について話題に上るようになって少し経ちます。その後「事業引継ぎガイドライン」が定められ、親族外の第三者によるMAや、それを支援する仲介業者なども増えてきました。ただ、実際のところ、事業の売り手からすると、MAについての知識などがなく、どのように進めれば(相談すればよいか)分からない、MAを第三者に仲介してもらう場合、どのくらい費用がかかるか心配である、MAを適切に進めてもらえるのか、不安があるといった声が聞かれるところです。そのため、第三者への事業承継についてはまだまだ増えていないのが現状です。そこで、少し前にはなりますが、経済産業省が令和元年12月に策定・公表された「第三者承継支援総合パッケージ」に基づき、「事業引継ぎガイドライン」を全面改訂し、「中小MAガイドライン」を策定しましたので、その概要と活用について紹介いたします。

「中小M&Aガイドライン」の概要は?

   前述のような第三者へのM&Aに対する情報不足や仲介業者等への不信感を背景に、より円滑にM&Aを進めることを目的にして、「中小MAガイドライン」は策定されています。このガイドラインの大きな方向性としては、中小企業の具体的なケースを挙げることで、よりM&Aを身近なものととらえてもらう・中小M&Aの流れに沿って確認すべき事項など明らかにする、仲介手数料をどう考えるか、客観的な判断基準や、M&Aの支援に関与する団体や専門家の役割などに言及しています。

 「中小MAガイドライン」は90頁近くあるため、その内容の詳細についてここでは紙面の都合があり取り上げられないため、詳細については直接「中小MAガイドライン」をご確認頂きたいと思います。今回はそのうち、重要と思われる、仲介業者の役割についてと、仲介手数料の考え方、支援に関与する弁護士の役割はどういったところにあるかについて取り上げます。

仲介業者の役割とは?

    M&Aを仲介する仲介業者については、「仲介者」として、このガイドラインで定義がされています。事業を譲り渡そうとする側・譲り受ける側双方との契約に基づいてマッチング支援などを行う支援機関をいうとされています。仲介契約は仲介者が譲り渡し側、譲り受け側双方との間で結ぶ契約のことを指します。

 なお、これと似て非なる概念としてファイナンシャルアドバイザー(FA)がありますが、こちらは譲り渡し側・譲り受け側の一方との契約でマッチング支援などを行う支援機関になります。

 前述のように、仲介者として関与してもらう場合には、譲り渡し側・譲り受け側双方と契約締結することになります。その分、仲介者は双方の事業内容が分かるため、譲り受け側・譲り渡し側双方の意向を踏まえたM&Aが進められるとされています。ただ、この場合注意すべきなのは、どちらか一方の意向を重視しすぎると、他方との利害が対立するケースが出て来ることです。そのため、譲り渡す方が自社の利益の最大化を目指すだけでなく、譲受会社との円滑なコミュニケーションを重視している場合、あるいは、譲り渡す会社の規模が大きくなく、多額の手数料を支払うのが難しい反面、できるだけ支援機関のサービスを多く受けたいという場合に適しているとされています。

 逆に、できるだけ踏み込んで助言や指導などを受けたい、公平にM&Aに関われるところのアドバイスを受けたい、といった場合には、先のFAを利用する方が良いといえるでしょう。これについては、実際に譲り渡しや譲受けを考える会社の資金余力やニーズによって変わってくるのではないかと思います。

仲介手数料についての考え方

    仲介手数料については、実際に仲介業者に依頼する業務の内容や範囲と関係してきます。仲介手数料の発生については、仲介契約・FA契約を交わしたときに支払う、着手金方式・月ごとに一定額の報酬を支払う、月額報酬方式・基本合意締結の時、案件が終わる前の一定の段階で支払う、中間金方式・案件終了時に支払いをする成功報酬方式、といったものがあります。実際にはどういった形で発生するかは、各業者によって異なります。すべての段階で請求する場合や、逆に着手金や中間金を請求することなく、案件終了の際のみ報酬を請求するという場合もあります。そのため、契約を交わす際には、どのタイミングで手数料が発生するか、よく確認をする必要があります。

 また、各手数料を計算するにあたっての何の価格を基準にするのか(譲渡額か、負債も含めた移動総資産額によるのか、それとも純資産額か)、具体的な算出方法(M&Aの場合には基準となる価額に応じて変動する階層ごとに定められた乗じる割合を、それぞれの階層の基準価額にあたる各部分にそれぞれ乗じた金額を合計して計算する「レーマン方式」による場合が多いとされています)、あるいは最低手数料の定めがないかどうかの確認も重要です。

 なお、仲介業者の場合は、譲り渡し側・譲り受け側双方と契約をし、双方に手数料を請求するのが一般的です。

 上記とは別に交通費などの実費がかかる場合については別で請求されることもありますので、この点にも注意が必要です。

弁護士の役割とは?

    中小企業がM&Aを行うにあたっては、窓口になる、相談を受けるところから、MAの仲介・交渉、そして譲受会社の企業価値、事業価値評価や、財務状況等の調査、法的リスクのチェック、そしてクロージングに至るまで、複数の支援機関の関与が必要になってきます。

 それぞれの段階でどういった支援機関の関与が期待できるか、それぞれの役割については、「中小MAガイドライン」に詳しく書いてありますので、興味がおありの方にはそちらをご確認いただき、今回はそのうち弁護士の役割としてどういったものが考えられるかについて触れておきます。

 M&Aでは、譲り渡し側の株主や経営者の親族、役員、取引先など多くの利害関係を持つ方々との調整が必要になってくるため、代理人として利害関係者との交渉・調整を図るということが考えられます。

 また、具体的なMAを進めるにあたり、どういったスキームで行うことが適切か、法的構成の検討や全体の調整役を果たす、あるいは、個別の契約書作成やリーガルチェック、法務デューデリジェンスなどを行う・また債務超過企業のMAの場合には資金繰りへの配慮や私的整理手続きなどを行う、一部の事業譲渡ができるか検討するといった対応が必要なケースもありますのでその手続きを行うこともあります。

 なお、M&Aでは、前述の流れで触れましたように、法務面だけでなく、財務面や税務面のチェックが欠かせないことから、公認会計士や税理士等との連携、あるいは業種や譲渡対象によっては行政書士や司法書士などの他の専門家、MAの専門業者との連携が必要なケースもあります。こういったそれぞれの専門家の支援も受けながら、スムーズに事業承継ができるような取組が今後も必要といえます。

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