法律のいろは

2021年1月27日 更新事業承継

経営の引き継ぎ(事業承継)と株式の引き継ぎの注意点(遺留分について,その1)

同族企業での事業引継ぎと株式の扱いの問題とは?

 いわゆる同族会社での経営の引き継ぎは親子間あるいは一族の間で行われることが多く,従業員が引き継ぐ・第3社が引き継ぐ(いわゆるM&A)は後継者がいない会社で使われることが多い方法と思われます。親子間での引継ぎの場合には結局のところ相続の問題(生前での対策を行う)ということになりますが,ここで引き継ぎの対象として重要なのは株式をだれが・どれだけ引き継ぐのかという話になります。

 

 多くの中小企業では,自社株式を自社で持っている(自己株式)以外には,創業者夫婦等が大半を持っていることが多く,特に複数の種類の株式がない場合が通常と想定されます。会社の経営の決定権は社長であるかどうかということではなく結局は株式の大半あるいはすべてをだれが持っているかという話になりますので,株式の引き継ぎは非常に重要です。経営の決定権は過半数の株式(議決権が制限された株式はないという前提です)を持っていればできますが,例えば役員の解任には2/3(ただし,株主総会出席者)となるのが普通ですし,少数株主に認められた権利(総発行数の1%あるいは3%でも認められるものがあります)の問題をクリアするには可能な限りすべての株式を特定の方(後継者)に集中させた方がいいという話になります。

 多くの中小企業では株式すべてに譲渡の制限(取締役会など会社のがないと譲渡をできない)がかかっているところではありますが,分散による先ほどの権利行使の可能性を封じるという点でも意味があります。

 

 何もしないということであれば,法律で定められた相続分で配偶者や子供に分けられていくため,生前の対策を行うことで後のトラブルを防ぐ必要性があります。

遺留分の制度とその注意点

 他のコラムでも触れますが,生前贈与や遺言を使うことで,経営者(株式を持つ方)が株式をだれに引き継がせるのかを決めることができます。ただし,生前贈与や遺言でも相続人となる方のうち一定の方(配偶者や子供)について一定程度確保されるべき財産の取り分(生活保障などのための制度として遺留分と呼ばれるものです)の確保が求められており,この対策が問題となります。

 

 ちなみに,この遺留分はこれまで(令和2年6月まで)の相続については遺留分減殺請求権と呼ばれる権利(権利を持つ方が法律上定められた期間内に行使をする必要があります)でした。この制度の下では,権利行使をされると株式がやはり一部共有になるので面倒な点がありました。遺留分は子供の身が相続人の場合には,一人あたりは遺産の1/2×法定相続分で,遺留分の侵害がるのかどうかの計算(方法は法律で定められています)をすることになります。

 この場合には解決のための交渉が面倒になるなどの事情もありましたが,法律の改正によってお金の清算をする制度(遺留分侵害く請求権)ということになりました。一番の特徴は,株式の共有になるということが亡くなったので,先ほど述べた後継者以外の方が多くの株式を持つことによる問題はなくなりました。

 

 ただし,遺留分の侵害をするのかどうかは相続開始時(創業者の方などが亡くなった時点)における株式評価額(これは時価ですので,特にいわゆる同族会社の場合には相続税評価額と一致するとも限りません)となります。生前贈与の場合には会社業績によって大きく上昇(もちろん減少もあります)する可能性がありますし,遺言の場合にはいくらになるのかが想定できない可能性があります。この金額によっては後継者にお金の負担を大きくかけかねないというのが問題になるところです。いわゆる同族企業では非上場株式なので株価をどう計算するのかが問題になります。

 一時的に株価が下がった時点で株式を売却するという方法もありますが,この売却額が時価を大きく下回った際には,遺留分の侵害の問題が出る可能性があります。このケースでは今述べた将来株式評価額がいくらになるのかがわからない→後継者に大きなお金の負担をかけかねないという問題も出てきます。

 

 法律改正により,相続開始前10年以上前になされた生前贈与(あるいは時価を大きく下回る売買)については,原則遺留分の侵害の問題は出ないということになりました。しかし,譲渡の時点で遺留分を侵害することをあげた側・もらった側が遺留分侵害になることを認識していた場合には期間の制限がかかりません。いつ相続が開始されるかはわかりませんし,生前対策を行うために株式評価額の計算などを行っているケースで遺留分侵害になるかどうかの話が分からないということは必ずしも言えません。

 こうした話から,制度の改正によっても後継者に思わぬお金の負担が生じかねないというケースもありえます。見通しをつけておくことは重要ですが,見通しによっては遺留分の対策も行っておく必要があります。

遺留分の対策の方法は?

 対策としては,何点か考えられます。まず,納税資金も含めて遺言でほかの預金などの資産の配分を定めておく(〇〇に相続させるという内容の遺言)や生命保険(非課税枠や遺留分などの侵害においても原則として考慮されないという裁判例があります)の活用というものが考えられます。ただし,前者は預金などお金の財産が少ない場合には活用に限界が出てくることも考えられます。後者については原則は考慮されないにしても,株式以外の財産のほぼ大半を保険につぎ込むのも裁判例の言う例外に当たる可能性が高まります。

 次にそもそも株式を時価で買い取るという方法ですが,お金がかかるため調達面の問題があります。

 

 このほかには遺留分を生前に放棄してもらうという方法が考えられます。原則は,家庭裁判所に遺留分を持つ方に放棄を申し立ててもらい許可をしてもらうというものです。裁判所は申し立てた方が真意で申し立てたのかどうかを資料などに基づき判断をすることになります。通常は,何の代償もなく・相応の必要性などもなく放棄をすることは考えにくいので,こう言ったポイントの対応をすることになるでしょう。

 遺留分に関しては,以上を定めた民法の特例と呼ばれる制度があります。その中身は二つあり

 ①除外合意(株式を遺留分の侵害を考える財産から外す)

 ②固定合意(株式の評価額を合意時の金額で固定しその後の変動を考えない)

というものです。いずれも事業の引き継ぎ(事業承継)の場面で後継者に株式を集中させる場面でのみ使うことができる制度です。これらの制度を使うには,代償となる財産の譲渡その他の取り決めを書類で行う必要があります。そのうえで,経済産業大臣の認定を受けて期限のうちに家庭裁判所で許可を得る必要もあります。

 

 株式評価額が生前贈与などの後で上昇する可能性が見込まれる場合などには①や②の制度を活用する意味合いはあります。後継者以外の遺留分の権利を持つ方とのやり取りを行う必要があります。現状そこまで使われてはいませんが,状況や見通しにより活用を考えるのもありうるでしょう。

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