法律のいろは

2024年9月8日 更新行政規制

福祉事業を行う上での指導監査とは?

指導監査とは?

 介護保険に基づく事業を行う方はもちろん,障がい者福祉サービスや児童発達支援サービスもそれぞれ法令の規制において事業提供や保険給付を受けることができるサービスで必要な規制が設けられています。定期的に改訂が行われる報酬改定が多くの事業者の方にとって関心があるのも,保険給付の請求内容にかかわるからと思われます。サービス提供にあたっても重要事項の説明が設けられるとともに,過誤のある請求は是正が求められますし,必要な報告や調査を行政から求められることもあります。

 

 以下では,高齢者介護ではなく,障がい者福祉支援サービス・児童発達支援サービスを前提にかなりの概略のみ記載します。法定の各種給付について,給付内容やその給付を受ける要件は法令などで決められており,報酬についても定期的な改定の上単価などが決まっています。法定サービスで給付を受ける場合には,適正な給付内容と提供実態に合ったものを請求し,給付を受ける形になります。障がい者福祉サービスについては,区分(障害の程度に応じたもので,高齢者介護の要支援や要介護に該当するもの,細かく言えば,訓練等給付に分類されるサービスの多くは区分認定がなくても支給されます)その他の状況から見て1か月あたりのサービス料も適正給付のものと支給決定されており,そこに適応するかどうかという点も,重要なポイントになります。

 

 こうした給付の申請(サービスの費用のうち自己負担分を除き公からの支払いとなります)が適正かどうか・サービスの提供や体制が適正に行われているかどうかは,規制法令上重要事項として質問や確認の機会が設けられています。このための質問や必要な指導を「指導」という形で行い,特に問題点が多いケース事業者について「監査」という手続きが行われる仕組みです。事業運営やサービス提供について重大な違反や違法な点があると,サービス提供(公の保険制度を使ったもの)を行うために必要な指定の取消し(行政処分)を受ける可能性もありえます。

 こうした指導・監査指針,特に着眼するポイントは行政から各種のサービスのタイプごとに公表されており,適宜更新されています。特定の文献にこれらがまとめられています。おそらく大半の事業者の方はこのハンドブックをお持ちかとは思いますが,集団指導・実地指導(令和6年から運営指導という名前に変更)の対象選定や方法などの記載があります。効率的かつ重点的に諸般の事情を考慮して特に対象となる先(すべての事業者が対象と一応はされています)が選定されます。問題事項がうかがわれる・トラブルその他での情報提供がある場合には選定されやすくなるように思われます。

 指導に臨むにあたっては営むサービスの種類ごとの指針の確認や現状の確認は重要であることは言うまでもありません。準備すべき書類の指定などがなされますし,当日は確認事項の回答が必要になる事項も出てきます。そこに対する事前準備(当日の対応が必要なのは当然ですが)も必要となります。

 

 指導の拒否や事業所運営基準(サービスの種類ごとに行政が定めて公表されています)についての著しい違反などがある場合・著しく不正な請求等がある場合には,監査手続きへの移行の可能性があります。先ほども出てきた集団指導とは,複数の事業者を集め一堂に行う方法・実地指導(運営指導)とは個別の指導のことであり,監査は事業所への立ち入り調査などを含め行政処分(先ほど触れた指定の取消しの他に軽微な内容である改善命令などもあります)を行う上で必要な調査を行うことを指します。

 

仮に処分が出されたとして後で争うことで足りるのでしょうか?

 行政処分(指定取消し・改善命令など)を出す際には弁明の機会を与えるとされていますが,その時点で初めて対応をするのでは遅い(処分が出てしまう)可能性が出てきます(というより高くなると思われます)。単なる過誤請求という場合には,誤りの部分のみ自主的に返還ということになりますが,重大な不正請求ということになると,ペナルティ部分(要は割増)での返金となり経済的なデメリットは大きくなります。また,指定取消しを受けると,保険給付を受けるサービス提供はできなくなります。

 

 行政上の不服申立てや訴訟を起こすことは可能ですが,行政処分の効力はそれでも止まらないのが原則ですから,事後争えばいいということで放っておくことは大きなリスクになる可能性はあります。もちろん,そうした事態になって納得いかない場合には不服申立てを行うこと・執行停止の申立てをすることは必要です。行政上の不服審査については,行政から執行停止される場合もありますが,回復困難な・重大な損害が生じる恐れがあるという点を示して停止の申立てを行う必要があります。裁判の場合には「緊急の必要」も要求されますが,このハードルは相当に高いものです。

 

 そのため,最初から重大な違反や不正がある(大きく報道されてかつ真実である場合)には,争う実益がどこまであるのか・大きな処分までは行きすぎではないかということで争うということを決める必要はあります。また,実際には不正や違反はないのに,調査の方法などに問題があると感じる場合には早くから対応を考えておく必要があります。その際には,お知り合いの士業,特に弁護士に相談をして対応などを考えることが必要になるでしょう。

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