
はじめに
虐待にあたるかについては,虐待の内容により判断が難しいことがあります。また,虐待にあたる事実がなければ単なるクレームと扱いがちですが,放置することで重大な事故になることもあります。リスクの有無や今後の防止策を検討した上で利用者の家族に伝えることで適切な対応をとりましょう。
高齢者に対する虐待にはどんな種類があるとされているのでしょうか?
まず,「虐待」といっても、いろいろな場合が考えられます。
自治体などで考えられている虐待には,
・身体的虐待(暴力により身体に痛みを与える・傷つける)
・心理的な虐待(暴言を吐く,存在を否定する,嫌がらせを行うことで精神的な苦痛を与える)
・経済的虐待(本人の同意なく財産を一方的に管理し経済的に拘束する)
・性的虐待(本人の同意なく性的行為を行う,強要する)
・介護・世話の放棄(介護が必要な高齢者を放置し介護をしない。必要なサービスを受けさせない)といったものがあるとされています。
身体的な虐待については,外からみてキズが残ったりするケースが多いと思われますので、比較的発見が容易ではないかと思います。しかし,心理的虐待や性的虐待は虐待を受けたとしても利用者の方で抱え込んでしまい,心の傷となってしまうとともに発見されにくい場合もあります。また、そもそも虐待にあたるか判断が難しいこともあります。
こういった虐待が起こってしまう背景には、激務や長時間のシフトによる慢性的な疲労を抱える職場の労働環境、職員教育が生きわたっていない・最初の項目と関連しますが職場内の不満などがあるとされています。
虐待があったとされた場合にはどう対応すればよいでしょうか?
平成28年には、施設での高齢者虐待について、国から全国の知事に対して、虐待についての相談窓口の設置、報告手順の標準化・職員に対する研修と虐待の早期発見への体制強化、初期段階での迅速・適切な対応、地域の実情に応じた体制整備の充実の4つを通知しました。
虐待があった場合についての体制は施設内できちんと確立しておくことが大切です。職員に周知され、虐待が発生したときに早急に職員間で連携が取れるようにしておくことが必要です。
施設内で虐待事案が発生したときは、認知した職員から各部署の責任者へまずは報告し、その後施設長などに速やかに報告することが必要です。
その後、施設長らを中心に、当該職員や同僚らから虐待の事実の有無について聞き取りをして確認していきます。もし、虐待の事実が実際にあった場合には、再発防止先の検討をし、実行できるようにすることが大切です。仮に虐待の事実があったとしても、その職員に問題があったと一方的に決め込むような対応を取らず、なぜ起きてしまったのか、どうしたら今後防ぐことが出来るかを検討することが大切です。
市町村には、事実確認をした上で、虐待の疑いがあると判断した時点で報告することが必要です。それを受けて市町村で立ち入り調査が行われることになりますが、虐待があれば、行政より施設に改善の指導がされます。指導に従わない場合には、老人福祉法などに基づき勧告や命令、指定取り消し処分になりかねないので注意が必要です。
虐待の事実があったときには、虐待を受けた利用者に対しては、事実確認の上、治療が必要であれば治療の手配をする必要があります。心理的虐待等であれば、心理面へのケアが必要になってくるでしょう。利用者のご家族には事実確認後、報告・謝罪を行うことになります。損害賠償が必要な場合は利用者の家族に対し誠実な対応をすることが重要です。
利用者の家族のクレームが虐待までに当たらないと思われるケースの場合には?
利用者の家族からのクレームを元に、事実を調査した結果、虐待にあたらない場合もありえます。この場合であっても、介護事故ではないからと軽く扱うと、その後大きなトラブルになりがちです。 もともとクレームが出て来るのは、なにがしか不満・不利益を利用者の方が感じて家族に話していることが多く、そうした小さなことから重大な事故が生じることもありえます。
ただ、ちょっとしたクレームを逐一対応するとなると、介護の現場が疲弊するだけになってしまいかねません。現場の苦情と思われるものについても、まずは苦情専門の部署に挙げるように仕組みづくりをするようにします。そこでリスクがあるかどうか早急に分析の上、防止策が必要と思われる場合には,適切に対処し、利用者の家族にも報告することを積み重ねることで、利用者の家族ともコミュニケーションを取るようにすることが大切でしょう。