法律のいろは

2019年3月7日 更新行政規制

依頼を受けたソフトウェアが無理な納期で完成できず・委託した会社は受取拒否できる?

はじめに

 ソフトウェアの開発の依頼を受けた会社が、別の会社・個人事業主にその作成や作業の依頼をするということは、IT業界では多くみられるところだと思います。ソフトウェアのような情報成果物を他の事業者・個人事業主に委託して作成をしてもらう場合、委託する会社と、委託を受ける会社の規模により、「下請法(下請代金支払遅延等防止法)」の適用を受ける場合があります。

 今回は下請法の適用があるケースを念頭に、無理な納期を指定されて成果物が完成しなかった場合、委託した業者が受け取り拒否できるかについて取り上げます。

「下請法」の適用を受ける場合とは?

 まずは、簡単に「下請法」の適用がある場合はどういったケースか見ておきましょう。

 「下請法」、正式には「下請代金支払遅延等防止法」は、「親事業者」にあたる会社が「下請事業者」に対してより優位な地位にあることを理由に、それを利用した濫用行為を取り締まることを目的に制定された法律です。

 ソフトウェア開発などの情報成果物に関する取引は、平成15年の法改正で追加されたもので、ゲームソフト販売会社がソフトウェアのプログラミング作成を他の事業者に依頼する場合や、別の企業よりソフトウェア作成を請け負っているIT関係会社が、そのソフトウェア開発の全部・一部を他の事業者に依頼する場合などが「情報成果物作成委託」として下請法で規制されています。

 それでは、こういった「情報成果物作成委託」の場合、どういった規模の会社同士の取引が、「下請法」の適用対象になるでしょうか。

 資本金額によって、どちらが「親会社」となり、他方が「下請事業者」とされるかが決まります。

 「情報成果物作成委託」の場合には、資本金5000万円以下の法人の事業者が、個人やそれ以下の規模の法人事業者に委託するとき、あるいは資本金規模が1000万円を超えて5000万円以下の法人の事業者が、個人または1000万円以下の法人の事業者に委託したときには、規模の大きい側を「親事業者」、他方を「下請事業者」として規制しているのです。

 

規模の大きい発注者側が無理な納期を設定していたときは?

「下請法」では、規模の大きい側である「親事業者」が、違法と知っていたか、事前に合意があったかにかかわらず、禁止している行為があります。

 今回テーマにしているケースは、「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の受領を拒むこと」にあたり、親事業者である発注者側が禁止されている行為にあたらないかが問題になります。

 上の場合は、納期が無理な内容であった(例えば、発売日がすでに決まっている関係から、通常だと製作に3カ月かかる内容のソフトウェアを1か月半で納入するよう要求していた)ことから、完成しようにも時間が足りず、納期が過ぎて完成したものを納品しています。

 発注した「親事業者」からすれば、そもそも製作に時間が足りないのを分かって同意したのだから、納品できなかったには、下請事業者に問題があったからだ、と主張することが考えられます。

 しかし、「下請事業者の責に帰すべき理由」があるかどうかは、形式的にみるのではなく、事前の合意が明確にされているか、「親事業者」の有利な立場を利用してのものでないかなど、具体的な事情を踏まえて判断されることになります。

 今回のケースですと、一見事前の合意があったように見えますが、通常こういった立場同士の取引であれば、依頼される側は断ると取引が停止されるかも、と考えて断りづらく、やむなく同意しているということも十分ありえます。ですから、明確に事前に合意していた、とみるには慎重であるべきでしょう。

 ですから、これまでの取引状況などを踏まえ、一方的に依頼した側が他方の事情を考慮せず一方的に納期を決めてしまっていた場合には、納期に完成しなかったからといって受け取らなかったときは下請法違反になりえます。

 

依頼した側は出来上がった物を受け取らなければならない義務はある?またこういった違反行為があった場合の影響は?

 納期をいつにするかは、契約内容になりますが、民法上は自由に合意できます。ですから、納期に無理があったとしても合意自体は当然無効とはなりません。ただ、合意の仕方によっては、無効とされることもありえます(ただし、「公序良俗違反」にあたる法律行為と言える必要があるので、ややハードルは上がります)。

 その場合は完成した成果物を受け取る義務が出て来ます。

 また、そういた違反行為があることについて公正取引委員会などに知られると調査・立ち入り検査や是正・勧告といった行政処分などを課される可能性もあります。特に勧告されると、どこの会社か公表されてしまうといった不利益は小さくないものです。

 ですから、無理な納期の設定にやむなく仕事を引き受け、完成に間に合わなかった場合でも、納期に合意していたからといって下請側が一方的に負担しなければいけない訳ではありません。むしろそういった納期を設定すると、親会社になる側は行政からの処分を受ける可能性があるリスクが出て来ることもよく考えて、お互い納品可能な時期になるよう話し合った上で納期を決める必要があるでしょう。

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