前回まで,労働者にあたるかどうかについての行政解釈について触れてきました。今回は,前回の最後付近で少し触れました最高裁の判断について,触れていきます。
問題になったケースは,自らのトラックを工場に持ち込んで,その工場の中で運送を行ったいた方が労災の給付を受けられるかが問題になったものです。この給付を受けるには,労働基準法などで「労働者」に当たる必要があるため,これまで触れてきたような話が争点となりました。
結論としては,労働者とは言えないという判断がなされています。つまり,労災の給付を受けることはできないということになります。その理由としては,工場を運営する会社の指揮監督のもとにいたとは言えないというものです。
このケースでは,工場の運送係から,運ぶものや運送先や納入時刻について指示を受ける・仕事を終えたら翌日の仕事の指示を受けて最後の積み荷をもって運送を行い,翌日は運送先に直行する・経費やトラックについては,運転手の方の自己負担である・手が空いていても,運送以外の仕事の指示はなかった・報酬は何も控除はなく,事業所得の形で確定申告がなされていたというものです。
一方で,運転手の方はこの会社の運送の仕事を専属的に行い,運送係の方の指示を拒否することができない状況であった・始業と終業の時間は指示によって事実上決まっていた・報酬は相場よりは少し低いものであったという事情もありました。
裁判所は,こうした事実関係を踏まえ,場所や時間に関する拘束が他の従業員よりも緩やかであったこと・運送という仕事の性質上,運ぶものや運送先や搬入時刻は指示するのは当然であって,それ以外に細かな事柄を指示していないこと・仕事に使う主な道具であるトラックは自腹で調達したものであることから,会社の指揮監督に従っていたとは評価できないと判断しています。
所得が給与所得ではなく事業所得として処理されていたことも補強の材料とされています。このほか,専属的に仕事を行い,事実上仕事を拒否できないという点については,あくまでも事実上拒否できないという点であると評価されたものと考えられます。
このケースでは,使用されなかったことが労働者といえない大きな理由とされています。個々の法律ごとに対象となる「労働者」のタイプが異なるため,それぞれに応じた判断がなされています。ここ数年の裁判例でも,自転車での配達サービスについて同じように「労働者」といえるか問題になるなど,今後も十分問題になるものと思われます。